室蘭へ行った帰り、国道276号沿い旧・大滝村の「きのこ王国大滝本店」へ寄ってみた。ここには北海道産のさまざまなキノコやキノコ食品、地元の新鮮野菜や特産品などが販売されており、その品揃え数はじつに2000種類以上。店内には「きのこレストラン」や「きのこ狩りスペース」などもあり、まさにキノコの一大テーマパークのような施設なのだ。
きのこ王国大滝本店
中でも、ここを訪れる人のほとんどが注文するというのが、「王国名物きのこ汁」だ。しめじ、なめこ、椎茸などがたっぷり入った具だくさんの“食べる味噌汁”で、さまざまなキノコの旨味が溶け合った深い味わいは、まさに極上と言っていい。これが一杯200~300円前後で味わえるのだから、超人気メニューとなるはずである。
きのこ王国の「王国名物きのこ汁」
日本人は昔からキノコが大好きで、縄文時代の遺跡からもキノコを食べた跡が発見されているそうだ。世界に目を向けると、キノコを好む国と好まない国に二分される。日本や中国、フランス、イタリア、東欧、ロシア、東南アジアの国々などはキノコを好む国で、逆にイギリスやアメリカ、インドなどは長い間キノコを敬遠してきた国といわれる。
ユニークなのはエジプトだ。古代エジプトではマッシュルームは“不老不死の食物”としてファラオ(王)が独占し、庶民が食べるのを禁じるほど神聖視されたものだったのが、近代に入るとキノコを食べる習慣がまったく消えてしまったという。古代ローマ帝国においても、キノコは“神の食べ物”として貴族などの特権階級に珍重されていたというが、こちらは消えることなく現代のイタリア料理でもしっかりと受け継がれ続けている。
キノコの王様「ポルチーニ茸」
その代表といえるのが「ポルチーニ茸」だ。古代ローマ人たちは、その丸々と太った愛らしいフォルムが“子豚”(porcini)に似ていたことから、そのように名付けたという。他を圧倒する芳醇な香りと濃厚な味わいは、まさに“キノコの王様”と呼ぶにふさわしい。クリームソースパスタで味わうなら、合わせるワインは巻末に挙げたナチュールの赤が良いだろう。熟成感や土や森のニュアンスが、ポルチーニの味わいをいっそう引き立たせるはずだ。
ポルチーニ茸のクリームソースパスタ
「一皿のキノコがヨーロッパの運命を変えた」という言葉がある。これは、神聖ローマ帝国の滅亡を意味するものだ。帝国末期の皇帝カール6世は、大のキノコ好きで知られた人物だ。それが1740年の秋、とくに好んだという野生キノコ料理を食べたところ、その中に猛毒を持つ「タマゴテングダケ」が混じっていたそうだ。その直後、皇帝は激しい体調不良に襲われ、10日後に55歳で急死してしまう。
その後に起こったのが、ヨーロッパ中に戦禍を広げた「オーストリア継承戦争」だ。プロイセンやフランス、ハンガリーなどを巻き込む8年間に及ぶ戦いは、神聖ローマ帝国の基盤を疲弊させ弱体化させることになる。一時的には持ち直したものの1806年、フランス皇帝に即位したナポレオンとの戦いに大敗し、ついに帝国は滅亡することとなる。1000年近く続いたとされる神聖ローマ帝国の運命を変えたのは“一皿のキノコ”だったと言われる所以である。
このようにキノコには、強い毒性や幻覚作用をもたらすものもあることから、神の食べ物と呼ばれる一方で、“悪魔の食べ物”とも呼ばれてきた。深い森の中でひっそりと自生する、傘を被ったような不思議なフォルムは、妖精や魔女、小人などが登場する数多くの物語や童話の中で、神秘的な存在として描かれ続けてきたのだ。
神秘的な形状の“妖精の輪”
植物は種から芽を出しゆっくりと成長するが、菌類であるキノコは雨が降った翌朝などに、何もないところから突如として姿を現す。キノコの中には、地面にきれいな同心円(サークル)を描いて生える種類もある。これなどは、「夜の間に妖精たちが輪になって踊り、その足跡にキノコが生えた」と信じられ、“妖精の輪”(フェアリーリング) と呼ばれているものだ。
日本においても、宮沢賢治がキノコを主役にした多くの童話を残している。『さるのこしかけ』『ありときのこ』『気のいい火山弾』などだ。彼にとってキノコは、自然科学の観察対象であると同時に、地上の世界と目に見えないスピリチュアルな世界をつなぐ、最も身近な魔法の存在だった。科学者としての確かな知識を持ちながらも、キノコを“異世界への入口”の象徴として登場させることで、森羅万象の神秘を描こうとしていたのである。
話は変わるが、“ケチャップ”と聞いて何を連想するだろうか?普通は「トマトケチャップ」だと思う。と言うか、トマト以外のケチャップが存在することなど想像もしたことがないだろう。ところが、である。イギリスには、“キノコのケチャップ”(マッシュルームケチャップ)なるものが、18世紀から存在するのだ。トマトケチャップは19世紀にアメリカで生まれたものなので、それより古いことになる。
キノコ調味料「マッシュルームケチャップ」
本文の冒頭で、イギリスではキノコはあまり好まれない、と書いた。ただし、それは食材としてそのまま食べることはしないという意味で、調味料としてはさまざまに活用されているのだ。キノコには昆布と同じ濃厚なグルタミン酸が大量に含まれている。これが肉料理に合うということで、ウースターソースのように上から垂らしたり、シチューなどの仕上げに加えるなどさまざまに使われているという。
上記写真はサラリとしたソースタイプのものだが、キノコの刻み粒を生かした粒入りタイプもあるという。そこで、ふと思い当たったのが、きのこ王国大滝本店で買って来た下記の「なめ茸シリーズ」である。同様の商品は他メーカーでも出しているが、これこそ“日本版キノコケチャップ”と言えるものではないだろうか。「梅」味は酸味が効いてトマトケチャップ風、「青唐味噌」も冷奴に薬味として乗せると格別だ。もちろん、ワインにも合うこと間違いなしである。
なめ茸シリーズ「梅」と「青唐味噌」
先ほど“キノコの王様”としてポルチーニ茸を紹介したが、その双璧ともなるのが「トリュフ」である。一般的なキノコのように地上に傘を広げるのではなく、ブナやオークなど樹木の根に寄生する。味はほとんどないが、濃厚なニンニク臭とも森の腐葉土とも形容される、芳醇で強烈な香りを持つ。乳製品や肉の脂と組み合わせると、香りが何倍にも引き立つため、パスタやリゾット、ステーキソースなどに多く使われている。
S&B食品の「トリュフ入りきのこペースト」
生トリュフは専門のオンラインショップでも購入することが出来るが、イタリア産のものだと通常30グラム程度で10,000円を超えるなど非常に高価だ。そこでおすすめしたいのが、上記の「S&Bトリュフ入りきのこペースト」だ。業務用のため一般店では取り扱っていないが、Amazonなどで1,000円程度で購入することが出来る。深まる秋、パスタやリゾット、ハンバーグなどに土や森の香りを添えて、ナチュールワインとともに味わいたいものである。

キュベ・デ・ガレ(Cuvee des Galets)
生産地:フランス・ラングドック地方
生産者:エステザルグ葡萄栽培者組合
品 種:グルナッシュ・カリニャン
価格帯:1600円(税抜)~
