<vol.100> 竹輪とワイン

「蒲鉾は竹輪に始まり竹輪に終わる」。じつにもっともらしい言い方だが、そのような格言があるわけではない。筆者が勝手にそう思っているだけである。蒲鉾は魚のすり身を加熱調理した、日本古来の伝統食品だ。板蒲鉾のように蒸したもの、薩摩揚げのように油で揚げたものなどいろいろあるが、竹輪は棒に巻き付け直火で焼いたものである。シンプルだが、ワインとの相性はこれが一番だと思っている。

 勝山水産の「鯛竹輪」

筆者が最近気に入っているのは、宮城県塩竃市の勝山水産が製造している「鯛竹輪」だ。宮城県と言えば仙台の「笹かまぼこ」が有名だ。この会社でも以前は笹かまを作っていたというが、現在は竹輪のみに絞って生産している。昔ながらの石臼を使い、原料の金時鯛(きんときだい)を他社の3~4倍の時間をかけてじっくりと摺り上げる。口に入れた瞬間、鯛の旨味がしっかりと感じられる逸品である。

魚のすり身自体は、中国南部や東南アジア沿岸で紀元前から食べられていたとされるが、ほとんどはスープの具材としてであったらしい。これが日本へ伝わった後、平安時代末期の1115年(永久3年)に書かれた古文書「類聚雑要抄」に、貴族の祝宴料理として「蒲鉾」が登場するのが最古の記録だ。竹の棒にすり身を巻き付けて直火で焼いたもので、形が抽水植物の「蒲(がま)」の穂に似ており、かつ長柄武器の「鉾(ほこ)」のようだったことから「蒲鉾」と名付けられたという。

つまり、これは「竹輪」の原型である。日本における最初の蒲鉾は“竹輪に始まる”というのは、この意味においてだ。その後、室町時代から江戸時代にかけて、すり身を板に盛って蒸気で蒸し上げて作る「板蒲鉾」が登場する。これと区別するため、竹に巻き付けて焼いたものを“竹輪蒲鉾”と呼ぶようになったという。

ちなみに、日本風の蒲鉾としての生産量世界一は日本だが、すり身製品全体として見ると、アメリカ、ロシアに次いでベトナムがアジア最大の生産国であり輸出国となっている。<vol.92>でも述べたが、すり身はベトナムでは「チャー・カー」(Chả Cá)と呼ばれ、バインミーなどに挟む定番の具材として広く食されている。

日本の蒲鉾製品の中で、もっとも職人の腕が問われるのが竹輪だそうだ。なぜなら、作り方がきわめてシンプルだからだ。すり身を棒に巻き付けて“直火”で焼くだけなのだが、火の通りや膨らみ具合を微細にコントロールしながら均一に焼き上げるため、熟練の目利きと高度な火加減の技術が求められるのだ。

とくに竹輪の風味を決定づけるのは、竹輪の表面を包むあのこんがりとした薄皮だ。これは、直火にさらされることで生じるもので、<vol.96>でも述べたメイラード反応により、焼きたてのパンに共通する香ばしさをもたらすのだ。

竹輪は、“おつまみの優等生”と言われる。安さ、手軽さ、栄養価の高さ、という3条件を完璧に満たしているからだ。とくに、高タンパクで低脂質であることは現代のヘルシー志向にもぴったりである。さらに、どんな酒類にも合う。ワインはもちろんだが、ビール、日本酒、焼酎、ウイスキーその他、合わせられないものはまずないだろう。

 国民的おつまみ「チーズ竹輪」

竹輪と切っても切れない関係にあるのは、チーズである。竹輪の穴にチーズを詰めた「チーズ竹輪」は、それぞれを単体で食べるより圧倒的に美味しい。これは、魚肉の旨味であるイノシン酸と、チーズの旨味であるグルタミン酸という2つの旨味が出合うことで、口の中で旨味の相乗効果が起こり、何倍も旨く感じるからだという。

チーズ竹輪は、東京・上野の食品会社「丸善」が1970年(昭和45年)に販売したのが最初と記録される。ただし、これはあくまでも流通製品としての始まりであり、実際にはプロセスチーズが普及し始めた1960年代から、一般の家庭では手作りおつまみとして広く食べられていた。つまり、全国各地で自然発生的に生まれた“国民的おつまみ”といった存在なのだ。

 どんぐりの「ちくわぱん」

じつは、竹輪はパンとも相性がいい。札幌市を中心に複数店舗を展開するパンメーカー「どんぐり」では、常時170種類以上のパンを販売しているが、その中で不動の人気ナンバーワンなのが「ちくわぱん」だ。これは、竹輪の穴にツナマヨサラダを充填させ、それにパン生地を巻き付けマヨネーズとともに焼き上げた調理パンだ。

竹輪もツナも魚肉であるから、イノシン酸の旨味を豊富に含む。マヨネーズには、チーズに共通するグルタミン酸の旨味が含まれる。このため、前述のチーズ竹輪と同じ旨味の相乗効果が起こるのだが、しっとりとしたツナマヨがパンに適度に染み込むことで、それぞれの具材がバラバラにならず、とろけるような一体感が生まれるのだ。

 かま栄の「パンロール」と「マヨサンド」

竹輪に限らず、普通の蒲鉾もパンには良く合う。「ちくわぱん」はパンメーカー側が発想した竹輪とのコラボだが、蒲鉾メーカー側からの発想でパンとコラボしたものもある。それが、小樽に本社を置く「かま栄」の人気商品「パンロール」と「マヨサンド」だ。

パンロールは豚挽き肉入りの蒲鉾を、食パンで巻いて油で揚げたもの。マヨサンドは一味唐辛子入りの蒲鉾に、マヨネーズを添えてパンで挟んで揚げたものだ。旨味の相乗効果は「ちくわぱん」と同様だが、蒲鉾をしっかり味わえる感じがより強まっていると言えるだろう。

最後に、合わせるワインであるが、赤でも白でもどちらでもイケる。竹輪をそのまま味わう場合は、下記に挙げたような白のソーヴィニヨン・ブランあたりが合わせやすい。ワサビ醤油を浸けたり、チーズ竹輪と合わせたりするには、ピノ・ノワールのようなライトボディの赤がいいだろう。パンを使ったものは、お好みでどちらでもOKだ。竹輪とワインのペアリングは、手軽でありながらも極上の満足感をもたらすものなのだ。

ボデガス・アルセーニョ ホフマン(Bodegas Alceno Hoffman)
生産地:スペイン・ムルシア州
生産者:ボデガス・アルセーニョ
品 種:ソーヴィニヨン・ブラン
価格帯:1700円(税抜)~

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