中華料理店でワインを置いているところは、きわめて少ない。高級店になるとけっこう置いてある店はあるが、町中華ともなると滅多にお目にかかれない。中華料理とワインとはそれなりに相性が良く、十分に合わせられるのだがあまり普及していない。これは、なぜなのだろうか?
それは、「紹興酒」の存在が大きいといえる。ビールやサワー、ハイボールなどのあと、次に何か頼もうというとき、せっかくなので“中国の酒”をという気分になる。このイメージが定着していることが大きいのだ。逆に言えば、フランス料理やイタリア料理と紹興酒は相性抜群といわれるが、まず頼む気になれない。これも、同様の理由からである。
東京・浅草橋の「水新菜館」
ただし、必ずしもそうだとも言い切れない。以前に東京の浅草橋へ行った際、中華料理店とワインバーが並んで建っているのを見かけたことがある。中華は典型的な町中華風店構えの「水新菜館」で、ワインバーは「水新はなれ 紅」という。じつはこの2店は内部でつながっており、親子で経営しているのだそうだ。
ワインバー「水新はなれ 紅」
紅の店主はソムリエの資格を持つ息子さんの方で、隣から本格的な中華料理を注文し、さまざまなワインとのペアリングを楽しむことが出来る。本館でも紅と同じワインをボトルやグラスで頼むことが出来、まさに“中華でワイン”を味わうためにあるような店なのだ。両店とも、つねに大繁盛。東京へ行くたびに何度もトライしているのだが、いつも予約が一杯で、いまだに入れていないのが残念である。
ところで、町中華とは別に“ガチ中華”と呼ばれるものがある。この2つは何が違うのだろうか?まず“町中華”だが、1910年(明治43年)に東京・浅草で創業した「浅草 来々軒」がそのルーツとされている。料理人は中国人だが日本人の経営によるもので、日本人の好みに合わせた「支那そば」「雲吞」「焼売」などを出して人気を呼んでいたという。
その後、赤色の看板が目印の、いわゆる今日的“町中華”が全国各地に広まったのは、戦後に旧満州から引き揚げてきた人たちによる。本格的に料理を学んだわけではなく、ほとんどが見よう見まねで現地の味を再現しながら、日本人向けに食べやすくしたもので、その代表が「焼き餃子」だ。中国では「水餃子」が主流で、これを主食として食べる。日本では白飯が主食だったため、油でパリッと焼いて“おかず”として味わえるようにしたのだという。
一方の“ガチ中華”とは、日本人向けにアレンジされていない本場中国そのままの味を楽しめる店を指す。もともとは、日本に住む中国人向けに作られた店が多く、メニューが中国語のみだったりする。東京・池袋駅の北口界隈にはこの手の店が集中し、“ガチ中華の聖地”と呼ばれるほどになり、近年は本場の味を求める日本人客も増えているのだという。
では、東京・赤坂の四川飯店や横浜中華街の老舗店などの“高級中華”はどういう位置づけなのか?結論から言うと、日本人向けである。本格的な腕を持つ中国人コックによる洗練された料理が多いが、辛さを抑えるなど日本人が食べやすいよう工夫されている。これらのルーツとなるのが、1884年(明治17年)に開業した日本橋の「偕楽園」と横浜中華街の「聘珍楼」だと伝えられている。
明治期・函館の西洋料理店「養和軒」
じつは同じ年の1月、開港地である函館にも一軒の西洋料理店が開業している。それが、上の写真の「養和軒」だ。函館に居留する西洋人や日本人の名士向けに、本格的な“洋食”を提供するために作られたものだが、同年4月には「新たに南京料理を始めます」という広告を出しているのだ。
『函館新聞』明治17年4月28日の広告
“南京料理”とは、当時の中華料理全般を指す呼び名だ。つまり、養和軒は中華料理も出す西洋料理店だったのだ。「アヨン」とあるのは創業者の陳阿龍(ちん・あよん)のことで、イギリス領事官の専属料理人を務めていた人物だ。彼が独立して開いた店であるから、馴染み客として領事館のイギリス人も多数訪れていたはずだ。
養和軒はもともと西洋料理店である、当然、ワインはあったはずだ。そこに新たに中華メニューが加わったということなのだ。イギリス人のワイン好きは、<vol.95>でも述べた通りである。ワインを飲みながら洋食を食べ、そこに中華も追加して一緒に味わっている様子がありありと想像できる。今回のテーマである“中華でワイン”のルーツは、どうやらここにありそうなのである。
函館・五稜郭の「大衆食堂 広州Greco」
では、現在の函館はどうなのだろうか?つい先日、所用で函館へ行った際、五稜郭地区で見つけたのが、いかにも町中華風装いの「大衆食堂 広州Greco」という店だ。看板の下には「点心と鶏出汁おでんとシャンパン」と添えられている。“シャンパン”とはフランス・シャンパーニュ地方のスパークリングワインである。ここまではっきり中華(点心)とワインを掲げている店を初めて見た。“おでん?”に疑問は残ったが、まずは入ってみたのである。
「鶏出汁おでん」とスパークリングワイン
最初にスパークリングワインを注文し、せっかくなので「鶏出汁おでん」も頼んでみた。さすがに看板に明記しているだけあり、この組み合わせは相性抜群であった。もちろん、普通のおでんもワインに良く合うのだが、“鶏出汁”というのが白のスパークリングと絶妙に絡み合い、新たなマリアージュの発見をもたらせてくれたのだった。
「羊肉串」と赤ワイン
次に注文したのが「羊肉串(ヤンロウチュアン)」と赤ワインだ。羊肉串は、本場中国の屋台などで売られている国民的ストリートフードであり、近年は池袋のガチ中華店でも人気だと聞いていたが、まさか函館でお目にかかるとは驚いた。クミンやハーブが効いた独特の味わいはトルコのケバブにも通ずるものだ。町中華とガチ中華と和風が混ざり合った不思議な店だったが、前述の養和軒も洋食と中華が混ざり合った店であり、このあたりの混合ぶりが函館らしさなのかもしれない。
最後に、札幌の町中華についても少し述べておきたい。東京のように駅を降りたら、必ず数件の町中華が目に入るところに比べると、その数は非常に少ない。まして、ワインを置いてあるところなどほとんどない。数年前まで「紅燈籠(ホンタンロン)」という、市内で4~5店舗くらいを展開していた中国人経営の店が多少のワインも置いていたのだが、年々規模を縮小し昨年夏には最後の1店もついに閉店してしまったのだ。
札幌の「青島飯店」
そんな中、最近見つけたのが地下鉄東西線「バスセンター前」駅近くの「青島飯店(チンタオハンテン)」だ。やはり中国人の経営によるものだが、町中華的な定食メニューから本格中華の宴会料理まで幅広く提供しており、一応グラスワインも赤・白ともに置いている。
「麻婆豆腐定食」とグラスワイン(赤)
筆者が注文したのは「麻婆豆腐定食」とグラスの赤ワインだ。赤はおそらく、チリのカベルネ・ソーヴィニヨンだと思われる。テーブルワインとしてはこれで十分ではあるが、豆板醤や香味油、陳皮、八角などが効いた中華風味には、下記のランブルスコのような“発泡系の赤”の方がより合うはずだ。青島飯店は着実に人気が高まっており、数年前には2号店を「すすきの」にも出店したそうだ。このような町中華が、今後も札幌に増えることを期待している。

メディチ エルメーテ コンチェルト ランブルスコ レッジアーノ セッコ
(Medici Ermete Concerto Lambrusco Reggiano Secco)
生産地:イタリア・エミリア・ロマーニャ州
生産者:メディチ エルメーテ
品 種:ランブルスコ・サラミーノ
価格帯:1600円(税抜)~
