ご飯のお伴に、柴漬けを食べることが多い。そのため、冷蔵庫には切らさず常備している。あるときワインのつまみが何もないので、柴漬けをつまみにしてみたら意外とイケることに気づいたのだ。以前に<vol.49>では梅とワインの相性についてふれたが、柴漬けはそれ以上に良く合うかも知れないのである。
柴漬けとカマンベールチーズの盛り合わせ
ちなみに「柴漬けとワイン」をネット検索してみると、じつに多彩なマリアージュがあることがわかる。パンやクラッカーにクリームチーズを塗り、刻んだ柴漬けをのせたもの。キャベツなどの野菜と柴漬けを和えたもの。マヨネーズと柴漬けを混ぜてタルタルソースとし、サラダチキンにかけたもの。この辺りは白のスパークリングに合うらしい。
ニラと一緒に柴漬けを刻み、オリーブオイルで炒めたニンニクと混ぜ合わせてレモンを搾れば、極上のカルパッチョソースにもなる。これからの季節、カツオやブリにかければ、爽やかな味わいで絶品だ。ロゼやスパークリングがおすすめと出ていたが、筆者ならやはり赤のピノ・ノワールで合わせたいところだ。
面白いところでは、クスクスのサラダである「タブレ」に柴漬けを刻んで混ぜると、酸味が効いて味が深まると出ていた。クスクスについては<vol.60>でも紹介したが、これはパスタの一種である。クスクスに柴漬けが合うのなら、パスタにも合うのでは?と思ったら、ネットにレシピが出ていた。柴漬けとニンニクを一緒に炒め、ミョウガと大葉と和えてソースにする。ワインは赤のシラーが合うそうだ。
京都左京区大原の「三千院」
ところで、「柴漬け」とはそもそも、キュウリやナス、ミョウガなどを赤紫蘇の葉で漬け、乳酸発酵させたものである。平安時代に京都大原の天台宗寺院「三千院」の僧侶である聖応大師(良忍上人)が、精進料理の中の漬物として考案したとされる。その後、壇ノ浦の戦いで平家が滅亡した後、高倉天皇の妃である建礼門院(平徳子)が大原の寂光院に隠棲した際にこの漬物が献上され、鮮やかな紫色が気に入られたことで「むらさきはづけ」と呼ばれるようになったという。
それが、漢字で「紫葉漬け」と書くことから「しばづけ」という読み方になったわけだ。ではなぜ“柴”の字を充てて「柴漬け」となったのか?じつは、大原の里は古くから野菜などの食材をはじめ、柴や薪の燃料など、京都が消費する必要物資の一大供給地だったのだ。それを売り歩くのが、「大原女(おおはらめ)」と呼ばれた行商の女性たちである。その際に“しばづけ”も一緒に売ったことで、担いでいた“柴”にちなみ「柴漬け」の字が充てられるようになったと伝えられている。
柴漬けに使われるのは赤紫蘇だが、青紫蘇(=大葉)も揚げ物や和え物、刻んで薬味とするなど、さまざまな料理に独特の風味を与える優れたハーブだ。イタリア料理に多く使われるハーブといえばバジルだが、これも同じシソ科の仲間で、β-カロチンやビタミンE、カルシウム、鉄、マグネシウムなど、紫蘇と共通の栄養素を豊富に含む。香り成分にはリラックス効果もあるそうだ。
前段では柴漬けとワインのさまざまなマリアージュを紹介したが、筆者としては冒頭写真にあるように、「柴漬けとカマンベールチーズ」くらいをつまみに、シンプルに合わせるのが気に入っている。ワインは酸味がやや強めの赤が良い。下記に挙げた「山崎ワイナリー」のピノ・ノワールなら、冷涼な北の風土で育ったシャープな酸味を含み相性ピッタリだ。
そういえば2年前、日本マーケティング協会北海道支部のK原さんが退任される際、有志一同で記念に山崎ピノの“2021年ヴィンテージ”を進呈したことを思い出した。2021年は、近年では最高のブドウ収穫の当たり年といわれる。2023年の出荷後、2年間の熟成期間を経て、ちょうど飲み頃となっているはずだ。開栓した際には、ぜひ感想を聞かせてほしいものである。
山崎ワイナリー ピノ・ノワール2021(Yamazaki Winery Pinot Noir 2021)
生産地:北海道三笠市
生産者:山崎ワイナリー
品 種:ピノ・ノワール
価格帯:4000円(税抜)~