普段、何気なく「海苔」を食べていたが、じつはこれがすごいスーパーフードらしい。何でも、昆布のグルタミン酸、鰹節のイノシン酸、干し椎茸のグアニル酸という、3大旨味成分のすべてを含んでいる唯一の食材なのだそうだ。さらに、板海苔一枚で食物繊維はワカメの10倍、タンパク質は昆布の5倍、カルシウムは煮干し一匹分も含まれているという。今回は、そんな海苔に着目してみたい。
「海苔とチーズのミルフィーユ」
海苔にワインを合わせるなら、赤はピノ・ノワール、白はほんのり潮の風味が感じられるアルバリーニョあたりがふさわしい。海苔そのままというより、オリーブオイルに浸けるかチーズと一緒に味わうのが、おすすめの合わせ方だ。雑誌『danchu』のホームページに出ていた「海苔とチーズのミルフィーユ」は、海苔とスライスチーズを重ねて切るだけの簡単なものだが、巻末に挙げたピノとは鉄板級の相性となり、クセになること間違いなしだ。
海苔の三大産地といえば、有明海、瀬戸内海、三陸海岸を指すが、産地の個性を説明する表現として最近、「メロワール」(merroir)という言葉が使われているという。これは、ワインの世界でおなじみの「テロワール」をもとに作られた造語で、フランス語の【mer】(海)と、【terroir】(風土)を組み合わせたものだ。アメリカの牡蠣の養殖業界で2000年代初頭から使われ始め、今日では海苔や魚介類全般の味わいを表現する用語として広まりつつあるのだという。
穏やかな内海である有明海には、養分豊富な多くの河川が流れ込み、塩分濃度が低めになることから、海苔にとろけるような甘みが出る。それとは逆に瀬戸内海産は、絶えず強い潮の流れにさらされることで、肉厚で色が濃くしっかりとした海苔となる。東北地方の三陸産は、親潮の影響を受け冷たい海で海苔が育つことで、凝縮された旨味を生むことになる。このようなメロワールの違いが、海苔に独特の風味をもたらしているのだ。
アメリカのスーパーの海苔コーナー
じつはいま、この海苔が海外でも人気なのだという。アメリカでは「seaweed snack」(海藻スナック)の名で、スーパーのスナック菓子コーナーなどで大量に販売されている。味付けも、塩味をはじめチリライム味、テリヤキ味、ベーコン味、BBQ味、アボガドオイル味、オニオン味など、じつに多彩だ。海苔はかつて、“得体の知れない黒い紙”(mysterious black paper)と呼ばれ避けられてきたが、現在ではポテトチップスに代わるヘルシーでサステイナブルなスナックとして急速に人気を高めつつある。
「SEAWEED(韓国産)」のパッケージ
上記のパッケージからも分かる通り、これらのほとんどは韓国産の海苔である。世界の海苔市場は韓国が約70%、中国が約20%、日本が約10%のシェアとなっており、韓国が断トツの1位なのだ。しかも、日本や中国では国内消費がほとんどなのに比べ、韓国産は全生産量の約50%が輸出用だ。韓国ではいま、海苔を“海の半導体”と呼ぶほどの重要な輸出産業と位置付けており、その勢いはさらに増しつつある。
韓国海苔がここまでシェアを広げたのには、明確な戦略があったからだ。海苔は日本においては、7世紀の飛鳥・奈良時代から食べられている伝統食ではあるが、焼き海苔や寿司海苔、佃煮など、常にご飯と供に食べるものだった。韓国で海苔が作られるようになったのは、15世紀頃からと比較的新しい。当初は日本と同じように、ご飯の“おかず”として食べられるのがほとんどだったという。
韓国で海苔にごま油を塗る食べ方は、19世紀頃に始まるとされる。韓国においてごま油は、“魂の調味料”と言っていいほど欠かせない存在だ。その後20世紀後半1980年代には、ごま油と塩で味付けしプラスチック容器に入れた、現在のようなパッケージが生み出される。日本への輸出も同時期に始まるが、日本では“海苔はご飯のお供”という習慣が定着しており、ごま油の味付けは白飯の風味を損ねるものとして、あまり好まれなかったのである。
一方、欧米市場への輸出に関しては、そのようなことを心配をする必要はなかった。2000年代、韓国政府と海苔企業は海苔を“ご飯のお供”ではなく、低カロリーでヘルシーな「seaweed snack」(海藻スナック)として売り込んだのだ。2010年代に入ると、日本よりやや遅れてアメリカでも韓国ドラマがブームとなる。ドラマを観て「あの黒いスナックは何?」と興味を持つ若者が増え、スーパーでの売り上げ急拡大をもたらしたのである。
ところで、冒頭で述べた海苔とワインのペアリングは、日本産の焼き海苔(味付けではなく)を想定したものである。韓国海苔をチーズと合わせると、塩味が少し強まり過ぎる気がしている。オリーブオイルにも素材の風味を引き出す効果があるので、普通の焼き海苔でも十分に美味しく感じられるのだ。韓国海苔の場合は、そのまま白ワインと合わせるのが良いだろう。ということで、最後にもう一品だけ日本の焼き海苔を使ったメニューを紹介しておきたい。
「海苔とチーズのオリーブオイル和え」
と言っても、料理というほど大げさなものではなく、焼き海苔を細かくちぎり、シュレッドタイプ(細かい形状)のとろけるチーズと一緒にエキストラヴァージン・オリーブオイルと和えたものだ。これが、驚くほどピノ・ノワールと合う。ただし、一点だけ注意点がある。
meiji「北海道十勝熟成3種の細切りチーズ」
とろけるチーズは、「生食(加熱なし)OK」または「そのままでも加熱してもおいしい」「加熱しなくてもおいしい」などと書かれたものを必ず選ぶことだ。単に「加熱用」とだけ表記されたものは、熱を通すことを前提に衛生基準をクリアしているので生食は避けるべしということだ。上記のチーズは、筆者がいつも購入している「生食OK」のものなので安心だ。下記のピノとのペアリングを、ぜひおすすめしたいのである。

エスピノ ピノ・ノワール(Espino Pinot Noir)
生産地:チリ・マイポヴァレー
生産者:ウィリアム・フェーブル
品 種:ピノ・ノワール
価 格:1800円~(税抜)
