この冬は、グラタンをよく食べた。数年前に妻の姪・H菜からもらった最新のオーブンレンジが使いやすく、さまざまな調理に大活躍している。とくに、ベシャメルソースを使ったマカロニグラタン、ポテトグラタン、チキングラタン、ドリア風のライスグラタンなどは、予熱200℃で20分加熱にセットすれば、香ばしい焼き具合で最高の仕上がりとなるのだ。
こんがり焼けた「マカロニグラタン」
それにしても、オーブン機能とは便利なものだ。グリルとは違って、庫内温度を一定にしながら食品を熱風で包み込むように加熱する。これにより、中まで均一に熱が通りふっくらと仕上げる。そして、表面に付くこんがりとした焼き色の焦げ目が、旨さをいっそう引き立たせる決め手となるのだ。
そもそも「グラタン」(gratin)とは、フランス語の【gratter】(グラッテ)=「こそげ取る」を語源とする。つまり、鍋底などにこびり付いた“お焦げをこそぎ取る“ということからきている。その起源は驚くほど古く、なんと!約3万年前の後期旧石器時代にまで遡るという。地面に掘った穴に焼き石を敷き詰めて肉などを焼き、焦げを調味料のようにして味わっていたらしい。
たしかに、焦げには独特の風味があり、食欲をそそる効果がある。これは「メイラード反応」といって、糖やアミノ酸が加熱などによって化学反応するものだ。これにより、「メラノイジン」という褐色の物質が生まれ、香ばしい風味を生み出すことによる。加熱がさらに進むと炭化して“真っ黒焦げ”の苦味の固まりになってしまうが、そのごく初期段階の茶色い焼き色具合の状態が旨味と香りの正体なのだ。
じつはこのメイラード反応だが、ワインの熟成にも大きく関係している。焦げのような高速加熱による反応ではないが、樽の中で数年から数十年をかけてじっくりと進む“常温長時間反応”というものだ。貯蔵中のワインにはわずかな糖(残糖)とアミノ酸が含まれており、これがゆっくりと反応し、やがて芳醇な“熟成香”(ブーケ)を作り出すのだ。
色調においても、効果は顕著に表れる。白ワインは無色透明の状態から黄金色を帯び出し、さらに琥珀色へ。赤は鮮やかな紫色から茶色味が加わり出し、やがて琥珀色の深味を帯びるように変化する。まさに、グラタンにおける焦げと同様の色味と風味が加わるということだ。さらに味わいにおいても、旨味を凝縮したような複雑味を生み出しつつ、角が取れたような“まろやかさ”をもたらす働きをするのだ。
ワインの熟成について、もう少し詳しく述べる。メイラード反応が、ワインの熟成に大きな働きをしていることは良くわかった。じつは、それ以上に重要な役割を果たしているのが、酸素との化学反応、つまり「酸化」なのだ。この酸化には、ワインを美味しくすると同時に、逆にワインを劣化させてしまうという、両刃の剣ともいえる2つの側面がある。
醸造プロセスを終え木樽で貯蔵されたワインは、一定期間の熟成プロセスに入る。木樽には微かに“呼吸”するかのような、微量の酸素を通す性質があるため、内部ではゆっくりと酸化が進む。酸素の働きでタンニンが結合し澱として沈殿するため、渋みがまろやかになってゆくのだ。
樽で熟成されたワインは、濾過プロセスを経てボトルへと瓶詰めされる。さらにこの後、ボトルは寝かせた状態で保存され、一定期間の瓶熟成を経て出荷となる。この“寝かせて保存”だが、筆者がまだ本格的にワインの勉強をする前、てっきりコルクが呼吸するためかと思い込んでいた。そうではなく、これはコルクの乾燥を防ぐためであり、スクリューキャップなどの場合は立てたまま保存ということになる。
さて、いよいよ抜栓である。コルク栓を開けたワインは、空気に触れた瞬間からどんどん酸化が進んでゆく。最初の口当たりが硬く、渋みが強く感じられていたワインが、グラスを回し空気との接触面を多くすることで、徐々に香りが開き、まろやかな味わいに変わってゆく。これをボトル一本分まるごと行うのが、デキャンタージュということになる。
ただし、その日中に飲み切ればいいのだが、飲み残した場合、さらに酸化が進んでゆくことになる。香りや果実味が急速に失われ、まろやかさを通り越した平坦な味に変わってしまう。つまり“劣化”である。これを少しでも防ぐためには、専用の器具で中の空気を抜く方法があるが、もっと簡単に出来るのは小瓶に移し替えることだ。180ml、250ml、350mlなど数種類の空瓶を再利用するのがおすすめで、筆者もこれを実践している。
ショウガパウダー
最後に、オーブン活用法についてもうひとつ。先日NHK『朝イチ』でやっていたのだが、市販のショウガパウダーをオーブンで予熱130℃で30分加熱し、さらに30分庫内の余熱で温める。これにより、生姜に含まれる「ショウガオール」という体を温める成分が400倍に増えるのだという。これももしやメイラード反応か?と思って調べてみたが、加熱による“脱水反応”ということだった。
ショウガオールには、他にも抗酸化作用、抗炎症作用などがあり、日頃から摂るのがいいらしい。グラタンに使えば、独特の辛味が美味しさをいっそう引き立てる。下記に挙げたシャルドネは、メイラード反応により樽香が効いた風味抜群の一本だ。こんがり焼けたグラタンに合うこと、間違いなしである。

ロンジェヴィティ シャルドネ(Longevity Chardonnay)
生産地:アメリカ・カリフォルニア州
生産者:ロンジェヴィティ
品 種:シャルドネ
価格帯:1100円(税抜)~
