<vol.83> 焼き鳥とワイン

先日、筆者が毎週ワインを購入している、酒本商店主催のワイン会があった。会場は、札幌ススキノの「バードウォッチング」という“フレンチ&焼き鳥”の店であった。近年、昔ながらの焼き鳥店とは異なる、新しいスタイルを打ち出した洒落た感じの焼き鳥店が増えつつあるようなのだ。

「バードウォッチング」のナチュラルワインリスト

このような店の特徴は、ワインをしっかりと揃えていることだ。とくに“ナチュラルワイン”に力を入れているところが多い。バードウォッチングも、ご多分に漏れずそうであった。ただし、この日はドイツワインの輸入代理店である「ヘレンベルガーホーフ」とのコラボ企画であったため、同社のT島さんが用意したドイツワインとのペアリングが主となった。

「ねぎま」と「ハツ」(ともに塩)

ドイツワインといえば、リースリングに代表される「白」である。青リンゴのようなキリッとした爽やかなイメージが強かったが、さすがはドイツ専門のT島さんである。爽やか系から豊潤系まで、さまざまな白が用意されていた。とくに、熟成の効いたリースリングは、塩味の「ねぎま」「ハツ」と良く合い、素材の深味を引き出してくれるような絶妙な味わいであった。

そもそも筆者は、焼き鳥は断然“タレ派”である。なぜなら、タレのベースである醤油が赤ワイン、とくにピノ・ノワールと相性が良いからだ。以前に<vol.23>では、北海道には“これは!”というような旨いタレの店が少ないと嘆いていると書いた。それでもやはり赤好きなので、タレを多く頼んでいたのだが、今回のような白があるのならば“塩”で頼むのも悪くないと思うのだった。

vol.19>でも述べたが、鶏肉はかつて高級品だった。鳥を焼いて食べる料理自体は平安時代からあったとされるが、それらはスズメ、ツグミ、キジ、カモなどの野鳥であり、「鶏(ニワトリ)」ではない。鶏は卵を産んでくれる貴重な存在であり、よほどの祝祭事でもない限り、その肉を食べることはなかったのである。鶏肉による焼き鳥が普及するのは、1960年代に米国から「ブロイラー(食肉用若鶏)」が導入されて以降のことであり、現在は国内鶏肉流通量の98%をブロイラーが占めている。

“高級品”とされる鶏とは、いわゆる「地鶏」である。これは日本古来の在来種38種の血統を受け継ぐもので、日本農林規格(JAS)が認定した66種に限られる。一見、数は多いような印象を受けるが、全流通量のわずか0.5%に過ぎない。代表的なものとして、“日本三大地鶏”と呼ばれる「名古屋コーチン」「比内地鶏」「薩摩地鶏」が挙げられる。共通して言えることは、肉質はブロイラーに比べやや硬めであるということだ。

「鶏灯」の「名古屋コーチン・せせり」(塩)

札幌でも、これらの地鶏を出す焼き鳥店がある。大通近くの「鶏灯(ケイト)」では、名古屋コーチンのさまざまな部位を炭火焼きで提供している。価格は一本350円~500円。大規模チェーン店の「串鳥」がブロイラーを一本190円で出しているのに比べると、2倍以上の価格となる。ただし、この店のスゴイところは、店内に本格的なワインセラーを設置し、常時100種類以上のワインを揃えていることだ。焼き鳥とワインとのペアリングにおいては、おそらく札幌で一番と思われる。

「鶏灯」のワインセラー

比内地鶏を用いた焼き鳥だと、価格はさらに跳ね上がる。専門店「鳥大」では、一本630円~900円で出しており、串鳥の約3~5倍だ。地鶏がいかに高級品であるかを実感するには、良い勉強になるだろう。ワインも鶏灯ほどではないが、多少のものは取り揃えていた。薩摩地鶏の店は澄川の「地鶏亭」がよく知られている。炭火の網焼きで濛々と煙を上げながら豪快に焼き上げる「もも焼き」は、野趣にあふれる逸品だ。ただし、九州の本格焼酎と地酒が売りの店なので、ワインはなかったと思う。

地鶏とは異なるが、「銘柄鶏」と呼ばれているものがある。鶏肉全流通量の残りの1.5%が、これにあたる。鶏種自体は基本的にブロイラーなのだが、飼料や飼育方法などに工夫を加え、味や食感などを改良したものだ。「桜姫」「中札内田舎どり」「知床どり」「大山どり」など、約150種がある。地鶏ほど高価ではなく、“本格焼き鳥”や“こだわりの焼き鳥”などと謳った店の多くが、この銘柄鶏を使用している。

「やきとり日本一」の「軟骨」と「砂肝」(ともに塩)

スーパーなどによく出店しているのは、テイクアウト専門の「やきとり日本一」だ。じつは、筆者は最近ここが気に入っており、けっこうよく買っているのだ。鶏はもちろんブロイラーだが、普通に美味しい。しかも一本130円前後というお手頃価格なのだ。焼き鳥店の焼き鳥は、焼き立ては中がジューシーで良いのだが、持ち帰って少し冷えると半生っぽくなってしまう欠点がある。その点、日本一は最初からテイクアウト前提で焼き上げているので、ちょうど良いのだ。

鶏肉をテーマにするのは、「ザンギ」や「新子焼き」も含めると、今回で4回目ということになる。ワイン会でのドイツワインのおかげで、白ワインが塩味の焼き鳥に合うことを、改めて確認することが出来た。ドイツに限らず、世界には味わい深い白がまだまだある。下記に挙げたのは、ポルトガルの土着品種を使った白ワインだ。ライチっぽい果実味が塩味の焼き鳥に絶妙にマッチし、最近気に入っている一本である。

インヴィンシブル ナンバー1 ホワイト
(Invincible Number One White)
生産地:ポルトガル・ドウロ地方
生産者:インヴィンシブル
品 種:ラビガド+コデガ+アリント他
価 格:1800円~(税抜)

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