<vol.87> お好み焼きとワイン

英国オックスフォード大学が刊行する「オックスフォード英語辞典」(Oxford English Dictionary)とは、世界でもっとも権威ある英語辞書として知られる。この辞書の2024年版から、【okonomiyaki】という単語が新たに加わった。折からの日本食ブームにより、ついに「お好み焼き」も世界的に認知されたということらしい。

「オックスフォード英語辞典」

以前<vol.64>では、30年ほど前に英会話を習っていたアメリカ人の先生が、好きな日本食に納豆を挙げたことを書いた。じつは、それと並ぶもうひとつの好物がお好み焼きだったのだ。当時のアメリカにお好み焼きがあるわけがなく、日本に来て初めて食べたということだったが、一口食べて大好きになってしまったということだった。

考えてみると、お好み焼きの主原料である小麦粉は、かつて「メリケン粉」と呼ばれていた。“メリケン”とは「アメリカン」が訛ったものだ。明治以降、アメリカから日本へ大量の小麦粉が輸入されるようになる。当時の日本にも石臼で挽いた小麦粉はあったのだが、機械による高度な製粉技術が進んだアメリカ産のものは品質が良く、そのため輸入小麦粉を指してメリケン粉と呼ぶようになったのだ。

つまり、主原料がアメリカのものであり、さらに豚肉やキャベツを加え、味付けのベースはソースとマヨネーズである。これはもう、アメリカ人にとってお馴染みの食材と調味料の組み合わせということになる。旨いと感じるはずである。何の抵抗もなく受け入れられるはずである。以前に<vol.33>では、筆者が初めてピザを食べたときの感動について書いたが、それと同様の効果があったようだ。

お好み焼きは、大正末期~昭和初期にかけて東京の屋台や縁日などで流行した「どんどん焼き」がルーツとされる。どんどん焼きは、水に溶いた小麦粉を焼き上げ、肉や野菜などの具材を乗せてさらに焼き、その上に小麦粉をかけて両面を焼いてウースターソースを塗ったもので、現在の「広島風お好み焼き」にかなり近い印象だ。

このどんどん焼きが関西方面に伝わると、値段が“一銭”と手頃であり、ソース味が“洋食的”であることから「一銭洋食」または「洋食焼き」と呼ばれ広まっていったという。つまり、いまや関西や広島のソウルフードとして定着したお好み焼きではあるが、登場した当初は“疑似洋食”のようなハイカラな食べ物として受け止められていたらしい。

ちなみに、「お好み焼き」という名称が広く普及するのは戦後の復興期以降である。お好みの具材を自由に選んで焼けるからとも、客が自分でお好みで焼くことが出来るからともいわれるが、どちらももっともである。おそらく、両方の意味合いが含まれて定着していったものと考えられる。

使われている食材や味付けが洋風であるなら、そもそもワインに合わないわけがない。と、ここまで書いて気づいたのだが、筆者自身、じつはお好み焼きにワインを合わせたことがなかったのである。これは試してみないことには始まらないと思い、札幌で10店舗を展開する創業58年の老舗チェーン「風月」を調べてみたところ、なんと!ワインを置いていない。辛うじて最新店舗の「モユクサッポロ店」1店にのみ、あるらしいことが判明したので早速行ってみたのである。

風月の「なまらデラックス玉」

注文したのは、豚肉、イカ、エビなどが入った「なまらデラックス玉」とグラスワインの赤だ。ワインはおそらくチリのデイリータイプで、カベルネ・ソーヴィニヨンだと思う。お好み焼きとはそれなりに合ってはいたが、ひとつ想定外なことがあった。それは、熱のこもった鉄板に向き合い、焼き立て熱々のお好み焼きを頬張ると、かなり暑いということだ。

これは、どうしても冷たい飲み物が欲しくなる。ビールやサワー、ハイボールがよく出るはずである。かといって、濃厚なソース味に冷やした白ワインは合いそうにない。そこで思ったのだが、こんなときこそキリッと冷えた発泡系の赤ではないだろうか。あまり紹介する機会がなかったが、発砲系赤の代表ともいえる「ランブルスコ」なら、かなり合いそうな気がしている。

海外でお好み焼きは、長い間「ジャパニーズ・パンケーキ」(Japanese pancake)と呼ばれてきた。それが現在、”Okonomiyaki“という日本語名で認知されつつあることは、冒頭でも述べた。広島市に本社を置くお好み焼きソースの専門メーカー・オタフクソース(株)では、これを海外展開への絶好のチャンスととらえ、2024年6月にフランス・パリ支店を開設。欧州の日本食レストランやイベントで、お好み焼きのPRに積極的に取り組んでいる。

「パリコレ2024」に出展したお好み焼き屋台

同社では、“クール・ジャパン”を象徴するお洒落な食べ物として、お好み焼きをアピールすることを発案。そのため支店開設に先がけ、なんと!究極のお洒落イベントともいえる「パリコレ2024」にお好み焼き屋台を出展させたのだ。モデルやスタッフ、メディア関係者に提供したところ、甘酸っぱいソースが美味しい、野菜たっぷりでヘルシー、寒い季節に体を温めるのに最適、などと大好評だったそうだ。

お好み焼きにどのようなワインが合うかは、筆者としてももう少し研究が必要と思われる。まずは、下記に挙げた発泡系赤のランブルスコあたりを、テイクアウトのお好み焼きと合わせつつ、自宅で試してみたいものだと考えているところだ。

メディチ エルメーテ コンチェルト ランブルスコ レッジアーノ セッコ
(Medici Ermete Concerto Lambrusco Reggiano Secco)
生産地:イタリア・エミリア・ロマーニャ州
生産者:メディチ エルメーテ
品 種:ランブルスコ・サラミーノ
価格帯:1600円(税抜)~

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