なぜか昔から、「油揚げ」が好きである。ご飯に味噌汁は欠かせないが、「豆腐と油揚げの味噌汁」であれば、もう言うことはない。汁物はもちろんのこと、煮物、焼き物、おでん、稲荷寿司、炊き込みご飯など、油揚げはさまざまな和食の常用素材だ。ワインのつまみとしても、ピザ風に焼いたり、肉詰め巾着にしたり、さまざまな創作料理に使われているのだ。
先日、UHBテレビの『発見!タカトシランド30周年記念スペシャル』を観ていたら、特別ゲストの明石家さんまが“海鮮稲荷”なるものを怪訝そうな顔をしながらも、旨い旨いと言いながら食べていた。カニとイクラをたっぷり詰め込んだ豪勢な稲荷寿司なのだが、油揚げのこういう食べ方があるのか!と、筆者も初めて知ったのだった。
「揚げ焼きのポン酢かけ」
油揚げはあの独特のふんわり構造により、焼くとカリッと香ばしくなり、煮ると出汁がたっぷりと染み込むという、2つの特性を持つ。筆者はあまり手の込んだものより、この特性を生かしたシンプルな料理法が好きである。その代表とも言えるのが、「揚げ焼きのポン酢かけ」だ。油揚げの両面をこんがり焼き、大根おろしと大葉を載せてポン酢をかけただけのものだが、赤ワインのピノ・ノワールとの相性は抜群なのだ。
和食とピノ・ノワールとの相性の良さは、何度も繰り返し述べてきているが、何か一品に絞れと言われたら、文句なくこの料理を挙げると思う。ただし、油揚げは多少良いものを使う必要がある。スーパーで売っている“小揚5枚パック100円”程度のものではなく、多少割高でも手作り感のある本格的なものが良い。味付けは基本的にポン酢のみなので、油揚げの素材の味がダイレクトに伝わってくるのだ。
菊田食品の「三角揚げ」
やはり、おすすめは「三角揚げ」である。四角い揚げだと、全体が均一で平坦な仕上がりになってしまうが、三角の形状だと角の部分に厚みを持たせ、中央部を潰し気味にするなど、変化を付けやすい。これが結果的に厚い部分はふんわり、薄い部分はカリッという食感のバリエーションを生み出すのだそうだ。また、三角の方が鍋の中で隙間が出来づらく、効率的に揚げることが出来るということだ。
話は変わるが先日、定食屋のランチで「肉野菜炒め定食」を注文したときのことである。野菜と一緒に炒めてあるのは一見普通の“肉”なのだが、一口食べて「?」と思ってしまった。味はたしかに肉なのだが、何か得体の知れない食感なのだ。どうやらタッチパネルで注文する際、つい手が滑って隣の(大豆ミート使用)の方にふれてしまったらしい。決してマズイことはないのだが、不思議な違和感がしばらく残ってしまった。
近年、世界人口の増加や畜産に伴う環境負荷の解決策として、「植物由来食品」=【plant based food】(PBM)というものが注目されている。その代表的なものが、大豆を原料とした“代替肉”と呼ばれるものなのだ。世界的な傾向として、このような食品の普及拡大は理解できる。ただ、納豆や豆腐、油揚げなど、日頃から大豆由来食品を普通に食べている身からすると、わざわざ“大豆ミート”を食べようという気は起こらないのだが。
そこで、改めて油揚げの起源を調べてみた。誕生したのは、鎌倉時代~室町時代にかけての頃らしいが、正確には不明だ。ただし、作られたのは仏教寺院の「精進料理」の一品としてだったことは確かだ。仏教では動物の殺生が禁じられているため、基本的に肉食は出来ない。野菜や豆腐が主となるわけだが、何とか肉の代用品になるものを作ろうと考え、水切りした豆腐を油で揚げることを思いついたのだという。
つまり、油揚げこそが“元祖・代替肉”だったのだ。もちろん、肉と油揚げでは、味も食感もまったく異なる。ただし、栄養価においては、大豆は“畑の肉”と呼ばれるように、肉と同等のタンパク質を豊富に含んでいるのだ。そう考えると、味や見た目を肉に近づける大豆ミートより、植物由来の伝統食品である油揚げを、ワインとともに普及させるほうが自然で効果的なように思えてしまう。
「豆腐と油揚げの味噌煮風」
最後に、とっておきの油揚げ料理を一品ご紹介したい。題して「豆腐と油揚げの味噌煮風」である。“風”としたのは、味噌煮というほど、煮込んだものではないからだ。じつは、これは冒頭で述べた豆腐と油揚げの味噌汁の残りなのだ。これが、不思議なほどピノ・ノワールに良く合う。お好みで、一味唐辛子を一振りするのもありだ。料理と言えるほどのものではないが、生活の知恵から生まれた一品である。下記に挙げたチリのピノは、これに合うこと間違いなしの一本である。
エスピノ ピノ・ノワール(Espino Pinot Noir)
生産地:チリ・マイポヴァレー
生産者:ウィリアム・フェーブル
品 種:ピノ・ノワール
価 格:1800円~(税抜)