2025年(平成7年)の年が明けた。元旦のテレビでは、明治神宮に大勢の初詣客が訪れる様子が映し出されていた。ずいぶん昔、筆者も一度だけここへ初詣に行ったことがあるが、もの凄い数の人波に圧倒され、結局本殿までたどり着けず諦めて帰った思い出がある。この明治神宮であるが、じつはワインとも浅からぬつながりを持っているのだ。
明治神宮の本殿
明治神宮は、明治天皇を祭神として祀っている神社だ。“神宮”とは、神社の中でも天皇や皇室の祖先神を祭神とする神社の社号である。中でも伊勢神宮は、最高神である天照大神(あまてらすおおみかみ)を祀っている“キング・オブ・神宮”とも言える位置づけであり、正式名称を単に「神宮」という。“伊勢神宮”とは、他と区別するため地名を冠した便宜上の呼び名なのだ。
現在、全国には25の神宮が存在するが、そのほとんどが明治以降に国家神道に基づき設立されたもので、古事記や日本書紀などの日本神話に由来するものは、伊勢神宮、石上神宮、出雲大神宮、鹿島神宮、香取神宮の5つに過ぎない。明治政府は欧米列強に劣らない近代国家を早急に建設する必要から、“祭政一致”の国づくりを進めた。そのため、神武天皇を祀る橿原神宮や、桓武天皇を祀る平安神宮など、数多くの神宮が全国各地に続々と誕生することになる。明治神宮もまた、明治天皇崩御後の1920年(大正9年)に創建されたものだ。
「よきをとり あしきをすてて 外国(とつくに)に おとらぬ国と なすよしもがな」(外国の良いところは取り入れ、我が国の悪いところは捨て、諸外国に劣らない立派な国としたいものだ)。これは、明治天皇御製の和歌である。この歌には、明治天皇が旨とした「和魂洋才」の想いが込められている。明治天皇は、国民の模範となって近代化を進めるべく、断髪、洋装、洋食をはじめ、衣食住の様々な分野に西洋文化を積極的に取り入れたとされる。
明治神宮南参道にあるワインの奉納樽
そのひとつが、ワインなのである。明治天皇は、洋食を食べる際には必ず西洋酒を伴とし、とくにワインを好んだと伝えられている。ところで、神社といえば境内には奉納された日本酒の菰樽(こもだる)が付きものだ。明治神宮も例外ではなく、本殿へ続く南参道には全国の酒蔵から献納された多数の酒樽が飾られている。驚くべきは、その向かい側である。なんと!ワインのオーク樽がズラリと並んで飾られているではないか。(上記写真)
献納された「ドメーヌ・ロマネ・コンティ」の貯蔵樽
しかも、ロマネ・コンティやシャンベルタンなど、ブルゴーニュのグラン・クリュ(特級格付)の超高級ワインばかりなのだ。これらはフランス・ブルゴーニュ東京事務所代表であり、ブルゴーニュ名誉市民でもある佐多保彦氏の呼びかけにより、ブルゴーニュの醸造元より献納されたものだという。2006年(平成18年)に最初の19樽の献納から始まり、現在は60樽を超えるまでに増え続けている。ワインをこよなく愛した明治天皇への敬意を示し、日本とフランスとの文化交流の象徴として、新たな名所になっているそうだ。
明治天皇の御真影
猪瀬直樹『ミカドの肖像』という本がある。元東京都知事の猪瀬氏がノンフィクションライターだった時代に書いたものだ。この中では、明治天皇の御真影(肖像画)が、なぜ西洋風の面立ちで威厳と自信に満ち、威風堂々とした風貌で描かれているかについて考察されている。この肖像画が描かれたのは、1888年(明治21年)。実際の明治天皇は、このとき35歳。若々しい気概にあふれた、“青年天皇”の雰囲気だったという。
欧米列強と肩を並べる国の君主として、率先して“脱亜入欧”を実践していくためには、このような西洋風を強調したイメージに仕上げざるを得なかったということなのだ。ただし、ワインに関しては誇張でも何でもなく、本当に好きで飲んでいたということだ。ということで、今回は明治神宮の奉納ワインにちなみ、ブルゴーニュを一本、下記に挙げておいた。特級格付には遠く及ばないが、比較的手頃な値段で手に入るAC.ブルゴーニュである。
フィサン(Fixin)
生産地:フランス・ブルゴーニュ地方
生産者:シャルル・ノエラ
品 種:ピノ・ノワール
価格帯:4000円(税抜)~