<vol.67> 銀座でワイン

「♪東京でひとつ 銀座でひとつ 若い二人が初めて逢った 真実(ほんと)の恋の物語~」。これはデュエット曲の定番、“銀恋”こと、「銀座の恋の物語」のサビの部分である。この曲は、銀座の街を舞台に、石原裕次郎と浅丘ルリ子が共演した同名映画(1962年公開)のタイトル曲としても使われている。

“銀座の顔”でもある「銀座4丁目交差点」付近

筆者は裕次郎世代ではないので、この映画は観たことがなく、石原裕次郎といえば「太陽に吠えろ」に登場するボスのイメージが強く印象に残っていた。そのため、あのような雰囲気のダンディな中年紳士が登場し、ブランデーグラス片手に銀座の高級クラブの若いホステスを口説くような話だろうと勝手に思い込んでいたのだ。

たまたま、BS日本映画専門チャンネルで観る機会があったのだが、思っていたのとは全然違っていた。裕次郎が演じるのは、銀座の裏通りでバイト生活をしながら画家を目指す一途な青年。その恋人役の浅丘ルリ子は、縫製の仕事をしながら服飾デザイナーを夢見る女工だ。この若い二人による、ひたむきな純愛ドラマだったのだ。

映画には、古い時代の銀座の街が数多く登場する。デパートや高級ブランド店が建ち並ぶ表通りこそ現在と同じだが、裏通りに入ると小さな飲食店や雑居ビルがひしめく、ごく普通の“東京の街”の風景だ。これらの映像を観ていると、たまらなく懐かしいものが込み上げてきた。じつは、何を隠そう筆者が最初に就職したのは、銀座なのだ。と言っても、別に高級クラブに勤めていたわけではない。

それは当時、銀座1丁目に本社があった広告代理店だ。“銀座1丁目”というと、まるで銀座のど真ん中のような印象を受けるが、銀座の中心は上記写真にもある「銀座4丁目」であり、1丁目は京橋寄りのもっとも外れなのだ。銀座通りから一本裏へ入ると、映画と同じく古いビルが建ち並び、小さな画廊や喫茶店、デザイン会社などがびっしりと入った世界だ。1980年代の前半を、筆者はこの街で過ごしたのだ。

ちなみに、椎名誠が『銀座のカラス』や『新橋烏森口青春編』など、自身の自伝的私小説で書いている業界紙の出版社時代の話は、銀座8丁目が舞台。こちらは、もう一方の銀座の外れであり、ほとんど新橋と言っていいエリアだ。このように銀座の両外れは、広告や出版系を中心とした会社が数多く存在したサラリーマンの街だったのだ。

そういう街であるだけに、安い居酒屋もけっこうあった。銀座というと高いというイメージがあるが、それはもうピンキリであり、20代の貧乏サラリーマンでも、それなりに飲み食い出来るところはあったのだ。しかし、さすがにワインを飲むような店には入ったことはなかった。いつか、銀座でワインを飲んでみたいとは思ってはいたが、なかなか実現できないままでいたのだった。

銀座三越の「ラ・カーヴ」

つい先日、所用で東京へ行く機会があり、久々に銀座へ行ってみたのだ。最初に覗いてみたのは、銀座三越の地下3階にあるワインショップ「ラ・カーヴ」だ。さすが、銀座の一等地のショップだけあって、ボルドーの5大シャトーすべてが揃っているなど、すごい品揃えだ。有料の試飲コーナーもあったが、こちらは営業時間外だったので銘柄を眺めるだけで店を後にした。

「グランマルシェ・デュ・ヴァン」の自動サーバー

次に向かったのが、銀座5丁目にある東急プラザの地下2階「グランマルシェ・デュ・ヴァン」というワインショップだ。この店で目を引いたのは、中央に置かれた2台の自動ワインサーバーだ。利用するにはまずカードを購入し、料金をチャージする。そして、10ml・25ml・50mlのいずれかの量を選びテイスティングする。ボトルでは手が出ないような高級ワインを、少量だけ味わうには最適なシステムだ。筆者もブルゴーニュの「モレ・サン・ドニ」25mlを、じっくりと味わいながらいただいたのだった。

銀座3丁目のワインバル「銀座でワイン。」

どうせなら、ショップ巡りだけではなく、本格的に“銀座でワイン”はどうかと思い見つけたのが、その名も「銀座でワイン。」という店だ。しかも、場所は銀座3丁目!中心地の4丁目のすぐ裏であり、1丁目の外れ育ちの筆者にとって未知の領域の店である。この立地から考えて、相当高いのでは?と一瞬怯んだが、スマホで調べてみると意外とリーズナブルのようなのだ。

サイトには、「本格イタリアンと炭火串焼きを楽しめるワインバル」とある。どうも、地元のサラリーマンが仕事帰りに気軽に立ち寄れる店のようである。入ってみると、まさにスペインの大衆酒場“バル”の雰囲気。メニューのトップには、まるで焼鳥屋のように「備長炭炭火串焼き」とある。鶏セセリと牛ハラミを注文したところ、絶品であった。グラスワインも690円~で、きわめて良心的だ。いろいろ飲んだが、南アフリカの「ピノタージュ」がとくに良かった。南アフリカ産ワインの品質の高さは<vol.61>でも述べたが、札幌でも手に入りやすい一本を巻末に挙げておいた。

銀座でワインを飲むなら、ミシュランの星付きレストランでなくとも、このような店で十分に満喫できるのである。それにしても、銀座ど真ん中のすぐ裏手の3丁目に、このような店があるとは大発見であった。どうも、最近の銀座にはこのような店が増えているらしい。また次回への期待が膨らむ、銀座ワイン巡りであった。

マクルー ピノタージュ(MAKULU Pinotage)
生産地:南アフリカ・西ケープ州
生産者:アイニッヒ・ツェンツェン
品 種:ピノタージュ
価格帯:1200円(税抜)~

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