一昨日の10月31日は、ハロウィンだった。コロナ禍前には、渋谷スクランブル交差点に大勢の仮装者が集まり、逮捕者が出るほどのお祭り騒ぎぶりが問題となっていたが、最近は警備が強化されたせいか、それほどでもないようだ。ハロウィンのシンボルといえば、目・鼻・口をくり抜いた「ジャック・オー・ランタン」と呼ばれるカボチャである。というわけで、カボチャとワインを合わせてみることにしたのである。
ハロウィンのシンボル「ジャック・オー・ランタン」
「カボチャ」という名前は、16世紀にポルトガル人が九州に渡来した際に、寄港地のカンボジアからもたらされた野菜であることが由来だ。筆者は長年、このカボチャが苦手であった。なぜなら、カボチャ料理といえば、かつては甘い煮物がほとんどであり、ご飯のおかずとしてもイマイチだし、ましてやワインのつまみになどなるわけがないと思い込んでいたからだ。
ところが、である。たまたま“カボチャの天ぷら”というものを食べてから、考えが変わった。“甘くない”のである。カボチャの持つ天然のほのかな甘みはあるものの、砂糖で煮込んだような甘さはない。天つゆなら赤ワイン、塩を付けるなら白ワインで十分にイケるのである。欧米でも菓子用に使うときは甘くするが、食事用に料理する際は甘くはしないということだ。
カボチャとトマトのチーズ焼き
簡単で美味しく出来て、最近とくに気に入っているのが、上記写真の「カボチャとトマトのチーズ焼き」だ。耐熱容器にカボチャとトマトを入れて塩胡椒を振り、とろけるチーズを乗せて、200℃のオーブンで20分。これで、完成である。赤ワインならサンジョヴェーゼと相性抜群だが、今回は巻末に挙げたカリフォルニアのシャルドネがあったので合わせてみた。この白は、わりと樽香がしっかりとしたタイプなのだが、カボチャの風味とも良くマッチし、秋を感じさせる風情ある味わいであった。
ところで、ハロウィンではなぜ、魔女やゾンビや妖怪、幽霊などの仮装をするのだろうか?これは、ヨーロッパの先住民であるケルト人の慣習に由来するという。古代ケルトでは、10月31日を死後の世界の扉が開き、先祖の霊が現世に戻ってくる日と考えられていた。その際に悪霊や精霊なども一緒に来てしまい、人間の魂を奪ったりするため、これらを驚かせて追い払うよう、あのようなおどろおどろしい仮装をするようになったのだという。
じつは、キリスト教圏の欧米人は、お化けや妖怪の類いは日本人のようには怖がらないのだという。これらはキリスト教以前の古代文化の遺産のようなもので、ファンタジーとしてとらえているらしい。幽霊についても、日本とはかなり事情が異なる。とくにアメリカでは、マリリン・モンローやエルヴィス・プレスリーなど有名人の幽霊伝説は各地にあるものの、一般人の幽霊というのはまず出ないということだ。なぜなら、誰も見に来ないから。つまり、カネにならないから出ない、ということらしい。
むしろ、欧米人が本当に恐れているのは“悪魔”という存在だ。「悪魔の棲む家」(1979年公開)という映画があったが、これは邦題であり、原題は「The Amityville Horror」(アミティヴィル町の恐怖)という。取り憑いているのは、いわゆる“悪霊”であり、悪魔ではない。悪魔は家になど取り憑いたりはしないのだ。この家はニューヨーク州ロングアイランドに実在し、映画効果で人気物件となり、現在も借り手が引っ切りなしの状態だという。日本の事故物件とは大違いである。
悪魔とは、神を冒涜し人間をそそのかす存在とされ、彼らは心底これを恐れている。悪魔は、新約聖書の冒頭部分において早くも登場する。イエス・キリストが荒野で四十日四十夜の断食中に、空腹を覚える場面だ。悪魔は囁く。「お前が本当に神の子なら、この石がパンに変わるよう命じてみろ」(マタイによる福音書第4章3節)。イエスはきっぱりと拒絶する。「人はパンのみで生きるのではない。神の口から出る一つ一つの言葉によって生きるのだ」(マタイによる福音書第4章4節)と。
つまり、悪魔とは人間はおろか、神をも誘惑しようとする恐るべき存在なのだ。かつて、ウイレム・デフォーがキリスト役を演じた「キリスト最後の誘惑」(1988年公開)という映画があった。聖書にはないシーンが数多く登場するため物議を醸し、全米各地で上映禁止が相次いだ問題作である。ただし、悪魔の描き方については、なかなか見事なものがあったと言える。悪魔はなんと、美しい天使の姿で現われるのだ。
十字架に磔にされ、息を引き取る寸前のイエスに“天使”が囁く。「あなたは神の子としての役割を十分に果たした、これからは人の子として生きるのはどうか」と。マグダラのマリアとの幸せな結婚生活の幻を見せられ、イエスの心は揺らぐ。しかし、最後は天使の正体が見破られ、悪魔は“黒い炎”となって彼方へと消え去る。イエスは無事、神の子として天に召されることになるのだ。
つまり、いかにも怖そうな姿のものが怖いのではないということだ。いつの間にか人の心に忍び込み、甘い言葉で囁く悪魔こそが、真の恐怖ということなのだろう。日本にも“魔が差す”という言葉があるが、かなり近い感覚ではないだろうか。カボチャとワインの話から始まり、思わぬ方向に話が進んでしまったが、現在、カボチャ生産量世界一の国といえば中国である。ということで、無理にこじつけるわけではないが、最後に中国の幽霊についてもふれてみたい。
中国の幽霊事情であるが、これがまたこの国らしさにあふれている。平山夢明『恐怖の構造』という本によれば、中国はアメリカとは事情が異なるものの、やはり一般人の幽霊というのは出ないものらしい。なぜなら、中国共産党が幽霊を認めていないからだそうだ。このため、幽霊が登場するホラー映画なども一切上映禁止だ。では、キョンシーが主役の「霊幻道士」はどうなのかというと、あれは古典文学に基づいており、世界に誇るべきものなので良いのだそうだ。それにしても、幽霊が出るのにも許可が必要とは、こちらの方がよほど怖い気がするのだが。
ロンジェヴィティ シャルドネ(Longevity Chardonnay)
生産地:アメリカ・カリフォルニア州
生産者:ロンジェヴィティ
品 種:シャルドネ
価格帯:1100円(税抜)~