「♪広瀬川 流れる岸辺 想い出は帰らず~」とは、さとう宗幸が仙台への想いを歌った叙事詩「青葉城恋唄」の一節である。冒頭に歌われる広瀬川は、仙台の雅称である「杜の都」の顔とも言える情緒あふれる川として知られる。ただ、仙台市民にとっての広瀬川は、むしろ“芋煮の川”と言っていいくらい人々の暮らしに密着した、季節行事に欠かせない川なのだ。
仙台の芋煮(味噌仕立て)
「芋煮(いもに)」とは、宮城県や山形県など東北各地で行われる秋の恒例行事だ。河川敷に家族や友人、職場などのグループで集まり、里芋や野菜、豆腐、コンニャク、豚肉または牛肉を煮込んだ鍋料理を囲んで盛り上がるという、東北人にもっとも親しまれている野外レクリエーションの代表的料理なのだ。
筆者はじつは、仙台の広瀬川での芋煮会を何度か体験したことがある。以前に勤めていた会社の支社が仙台にもあり、秋に出張で訪れた際など必ずと言っていいくらい芋煮会に誘われたのである。広瀬川には芋煮会場に最適なスポットが多数存在するが、筆者が参加したのは、JR仙山線「愛子(あやし)駅」が最寄りの「元祖芋煮会場広瀬川」という野外会場だ。
この会場が素晴らしいのは、豚肉や野菜、鍋、薪、炭など一式がすべてセットになっていること。つまり、手ぶらでふらっと参加できるというシステムなのだ。秋晴れの河川敷で味わう味噌仕立ての芋煮は、野趣にあふれたいへん美味なものであった。ただ、その感想を一言で表わすなら「これは、ほとんど豚汁ではないのか?」ということだ。唯一の違いは、ジャガイモではなく里芋を使うことだが、それ以外はまったく豚汁とイコールだ。地元出身者の話でも、じつはその通りだということだった。
山形の芋煮(醤油仕立て)
別な機会に、山形風の芋煮を味わう機会があった。こちらは豚肉ではなく牛肉を使い、醤油仕立てとなる。じつは芋煮の発祥は江戸時代初期の1600年代の半ば、現在の山形県の中央部・中山町付近の最上川の河原らしい。当時、日本海側の酒田は北前船の重要な寄港地であり、ここから最上川を往き来する舟運航路が内陸部まで通じていたのだ。この時代の船頭たちが船待ち時間を利用して河原で始めたのが、地元名産の里芋や京都から運んだ棒鱈など煮込んだ鍋物だったという。
山形で牛肉を入れるようになったのは、大正末期の1920年代とされる。明治以降、県の内陸部では米沢などで牛の畜産が盛んとなり、牛肉を食べる習慣が早くからあったためだ。その後、芋煮は東北各地へ伝わるが、養豚業が盛んな庄内地方や宮城県などでは豚肉となる。それ以外にも、秋田県や岩手県では鶏肉を入れるのが主流となっているなど、地域ごとにさまざまなレシピが存在するようなのである。
牛肉、豚肉、鶏肉と、さまざまな芋煮が存在することはわかった。それにしても、草創期の芋煮に入っていたのは肉ではなく“棒鱈”だったというのには驚かされる。以前に<vol.43>では、ポルトガルの“干しタラ”と大航海時代との世界史的関わりについて述べたが、同じく北前船という海の交易路で運ばれた棒鱈が、芋煮の誕生に深く関わっていたことに、筆者などはむしろ興味を惹かれてしまう。
さて、芋煮に合うワインであるが、味噌味にしても醤油味にしても、ゴボウから出る“大地の風味”とも言える独特の出汁が全体を引き締めており、ペアリングの鍵となると思う。同様に大地の風味を感じられるワインとして、グルナッシュとカリニャンから造られた果実味豊かなナチュールを下記に挙げておいた。タンニンは控えめだが、深いコクと野趣に富んだ果実味が感じられ、芋煮のような鍋料理に合うこと間違いなしである。
キュベ・デ・ガレ(Cuvee des Galets)
生産地:フランス・ラングドック地方
生産者:エステザルグ葡萄栽培者組合
品 種:グルナッシュ・カリニャン
価格帯:1600円(税抜)~