6月12・13日は、カトリックの祝祭で「聖アントニオ祭」と呼ばれる。聖アントニオとは、ポルトガルの守護聖人のことだ。この時期はちょうど、鰯(イワシ)漁の解禁日にもあたるため、この祭は別名「イワシ祭」とも呼ばれている。首都リスボンの街角には、旬のイワシを味わうための炭焼き屋台がズラリと並び、街中が濛々としたイワシの煙に包まれるそうだ。
粗塩を振って焼かれたイワシにオリーブオイルとレモン汁をかけ、こんがり焼けたパンに挟んで豪快にかぶり付くのが、ポルトガルでは定番のスタイルだ。イワシの脂がパンに染み込み、ワインとの相性も最高となる。赤ならやはりピノ・ノワール、白なら微発泡のヴィーニョ・ヴェルデが合うこと間違いなしだ。
イワシは日本でも多く食べられている。千葉県の銚子沖は親潮と黒潮がぶつかる好漁場で、銚子はイワシの漁獲量で、長年に渡り日本一を誇っている。6~7月に水揚げされるイワシは「入梅いわし」と呼ばれ、一年のうちで最も脂が乗り美味とされている。ただし、近年は温暖化の影響などで漁場が北へ移動し、水揚げ量が不安定になってきているそうだ。
日本で獲れるイワシは、マイワシとカタクチイワシだ。マイワシは、塩焼きや煮付け、揚げ物などで、一般的に食べられている。英語では「サーディン(sardine)」となり、オイルサーディンなどでおなじみだ。カタクチイワシは目刺しや煮干しに使われ、英語では「アンチョビ(anchovy)」となる。日本では、塩漬けした缶詰の“アンチョビ”として、よく知られている。
マイワシの香草トマト・チーズ焼き
生のマイワシをグリルで焼くのもいいのだが、難点は大量の煙が発生し臭いが調理器にこびり付いて、なかなか取れないことだ。そこで提案したいのが、缶詰の活用である。上の写真は、マイワシの水煮缶にオリーブオイルと香草パン粉をかけ、チーズとトマトを乗せて200℃のオーブンで20分間焼き上げたものだ。イワシ特有の苦味が、ヴィーニョ・ヴェルデの微炭酸のほろ苦さとかみ合い、じつに美味なのであった。
イワシは、アヒージョにしても旨い。マイワシを捌いてニンニクや唐辛子と一緒にフライパンに入れ、オリーブオイルで加熱するのが本格流だ。それもいいのだが、筆者がおすすめしたいのは、スーパーでよく売られている「食べる煮干し」(=カタクチイワシ)を使った方法である。呆れるほど簡単で、ビックリするほど美味しく味わえる秘策を紹介しよう。
「食べる煮干し」の瞬速アヒージョ
まず、小皿に煮干しを入れる。そこにブラックペッパーを一振りする。お好みで、一味唐辛子もありだ。その上に、エキストラヴァージン・オリーブオイルをかける。軽く混ぜ合わせて、10分程度置いておく。これだけである。煮干しは小さいながらも立派な“干物”であるから、身の中には旨味が凝縮されている。このままでも十分にツマミになるのだが、オリーブオイルと出合うことでお互いの風味を増幅させ、一気に“タパス”(小皿料理)へと進化するのである。
イワシには、カリウムやカルシウムなどのミネラル分をはじめ、DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸が豊富に含まれている。とくにカルシウムは、煮干し10gで牛乳1本分(200㏄)とほぼ同量が摂れるので、牛乳が苦手という方でも安心だ。アヒージョの場合も、合わせるワインは赤のピノ・ノワールでも、白のヴィーニョ・ヴェルデでもどちらでもイケる。今回は、ポルトガルの守護神とイワシ祭に敬意を表するという意味で、白を一本挙げておくこととしよう。
ヴィーニョ・ヴェルデ・ハーザ・ブランコ(Vinho Verde Raza Branco)
生産地:ポルトガル・ミーニョ地方バシュト
生産者:キンタ・ダ・ハーザ
品 種:アリント主体
価格帯:1400円(税抜)~