<vol.49> 梅とワイン

「♪梅は咲いたか~桜はまだかいな~」とは、江戸小唄「梅は咲いたか」の一節である。東京の梅の名所・湯島天神では、2月上旬~3月にかけて梅の花が満開となる。札幌での開花は、4月下旬~5月中旬とまだ先だが、湯島の梅とも浅からぬ縁を持つ由緒ある“梅”が手に入ったので、今回はこれをワインのお供としたい。

 伊達市菅原農園の「スガワラの梅漬け」

湯島天神は正式には「湯島天満宮」といい、福岡の「太宰府天満宮」と同じく、学問の神様・菅原道真を祀っている。上の写真の「スガワラの梅漬け」は伊達市で農業を営む菅原農園の梅の実を梅酢と赤紫蘇で漬け込んだものだ。菅原家のご先祖は1893年(明治26年)に香川県から移り住んだということだが、その先のルーツを辿ると、なんと!菅原道真公に行き着くという。

道真公には、梅にまつわる逸話が多い。「東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」(梅の花よ 東から春風が吹いたら 梅の香りを送っておくれ 主人の私がいなくとも 春を忘れてくれるなよ)。これは、京都から太宰府へ流された際、彼がこよなく愛した自邸の梅の木との別れを惜しみ詠んだ歌とされる。

道真公が旅立ったあと、一夜にしてこの梅があとを追い、京都から太宰府まで飛んできたという言い伝えがある。いわゆる“飛び梅伝説”である。この梅はいまでも太宰府本殿の横で御神木として枝葉を伸ばし、早春には満開の花を咲かせているのだ。この伝説が物語るのは、道真公の梅への思いがいかに深かったかということだろう。

それは、道真公の遠縁にあたるという“菅原さんの梅”でも然りである。菅原家の90歳を超えるお婆さんが、丹精込めて育てた完熟梅を、先祖代々受け継いできた昔ながらの製法を守りながら作り続けている。少量生産のため、限られた店でしか手に入らないとのことだが、その希少な一店が<vol.19>「室蘭焼き鳥とワイン」にも登場した“地酒&ワインの店”酒本商店なのだ。

筆者がいつもワインを購入しているのは札幌店だが、本店は室蘭で創業110年を超える老舗酒屋だ。菅原農園のある伊達市とは隣町同士という縁もあり、この梅漬けを特別に卸してもらっているそうなのだ。札幌店にもごくわずかだが入荷しており、店長ソムリエのM浦さんからのおすすめで購入したのである。

当然、ワインに合わせることを考えた。豚バラ肉の梅じそチーズ巻や、豚しゃぶの梅肉添えなど、簡単な豚肉料理で赤のピノ・ノワールと合わせてみた。豚肉と梅が好相性なのは、よく言われているとおりだ。梅の酸味が豚肉の旨さを引き立て、さらにワインの果実味とも調和して、じつに美味なのであった。

そのうち、梅そのものをシンプルに味わってみたくなり、冷奴やチーズに梅を乗せてみると、これがまたピノと抜群に合う!こうなると次はもう、梅をダイレクトに合わせるとどうなのか、ということになる。一瞬、酸っぱ過ぎるのではないかという不安もあったが、この梅漬けに使われているのは赤紫蘇、塩、梅酢といった天然のものばかり。酸っぱさは強いが、後味が自然ですっきりなのだ。

巻末に挙げた北イタリアの酸味がやや強めのピノと合わせてみると、むしろ酸味が緩和され、梅のフルーティさがいっそう引き出されて、じつにいい感じだ。考えてみると、味の決め手となっているのは赤紫蘇だ。イタリア料理の鉄板ハーブといえばバジルだが、じつはこれも同じシソ科の仲間なのだ。このあたりにも、ワインと合わせやすい理由が潜んでいそうである。

ワインのテイスティング用語でも、稀に「赤紫蘇のような風味」という言葉が使われることもある。ペアリングの基本は、色や味の近いものを合わせることだ。どうも、梅漬けと赤ワインは、かなり似たもの同士で好相性にあったようだ。余談だが、梅と赤紫蘇のエキスが染み出た漬け汁は、そのまま焼酎で割ってもイケる!これもまた、お楽しみのひとつなのである。

カンティーナ・ラヴィス・クラシック ピノ・ネーロ(Cantina Lavis Classic Pino Nero)
生産地:イタリア・トレンティーノ・アルト・アディジェ州
生産者:カンティーナ・ラヴィス
品 種:ピノ・ネーロ
価格帯:2200円(税抜)~
※ピノ・ネーロはイタリアのピノ・ノワール

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