<vol.45> 栗とワイン

漫画家のヤマザキマリの本を読んでいたら、イタリア人がいかに“栗好き”かということについて、滔々と語っていた。イタリアの栗生産量は世界的には第6位だが、ヨーロッパではスペインに次ぎ第2位。遥か古代ローマの時代から、栗を愛する食文化が脈々と受け継がれてきているという。

 栗のリゾット・トマト風味

栗というと、普通、マロングラッセやモンブランなど、スウィーツの素材としてのイメージが強い。また、日本の料理で思いつくのは、せいぜい栗ご飯と茶椀蒸しくらいだ。ところが、イタリアではリゾットやドリア、パスタ、ピザ、グラタン、シチュー、スープ、ミートソース、サラダ、さらに栗粉を混ぜたパンなど、ありとあらゆる料理に使われているという。そのバリエーションの多さは、日本とは比較にならない。

これらの料理は、当然、ワインと合わせて食べられているが、それ以上に相性がいいのは、シンプルな「焼き栗」なのだという。毎年、10月下旬~11月上旬の栗の収穫期には、イタリア各地では「サグラ(sagra)」と呼ばれる収穫祭が開催される。ちょうどこの時期は、ワインの新酒「ヴィーノ・ノヴェッロ(vino novello)」の解禁日である10月30日と重なるため、ホクホクの焼き栗をつまみながら出来立てのワインを味わうのが、イタリア人たちの最大の楽しみになっているそうだ。

新酒というと、フランスの「ボジョレー・ヌーヴォー(Beaujolais nouveau)」があまりにも有名だ。ただ、この新酒はブルゴーニュのボジョレー地区で収穫された「ガメイ」という品種のみを使ったものに限られている。これに対し、イタリアの新酒はどの産地のどんな品種を使ったものでも基本的にOK。このへんの大らかさが、何事にも縛られるのを嫌うイタリア人らしさにあふれており、まさに“地元の新酒祭り”として各地で盛り上がるのだ。

栗にはミネラル成分が豊富で、ビタミンC、B1、B2なども含まれており、古代ギリシャでは薬剤としても重宝されてきたという。偏頭痛には栗の葉と皮を入れたお湯を飲めば緩和され、心臓に疾患がある人には生の栗、胃や肝臓が悪い人には焼き栗に蜂蜜をかけて食べると効果があるとされてきた。すぐれた栄養価と薬効を兼ね備えた栗は、紀元前からのスーパーフードだったのだ。

古代ローマ時代のポンペイ遺跡からは、栗の木材を使った家具も出土されている。建築資材としての栗材は耐久性に優れ、日本においても伝統的家屋の土台や柱などに多く使われてきている。縄文時代前期の三内丸山遺跡で発掘された大型掘立柱建物も、この栗材で造られていたというから驚かされる。日本で稲作が普及する前の縄文時代には、集落の周りで栗を栽培し、ほとんど主食のように食べられていたことがわかっているが、食材としてだけではなく建材や木器、薪などさまざまに活用されていたらしい。

縄文時代といえば、<vol.18>「縄文人とワイン」の中で、ヤマブドウを自然発酵させた果実酒の原型のような“縄文ワイン”の可能性についてふれた。鹿や猪の肉だけではなく、焼き栗をつまみにこれを飲んでいたとも考えられるので、その姿が目に浮かんでくるようで興味は尽きない。

栗の話は本来、旬である秋にすべきであったとは思う。たまたま、ヤマザキマリの本でイタリアの栗事情を知ったのがつい最近だったため、少々季節外れの話題になってしまった。当然、新酒の時期は終わっており、栗についてもいま手に入るのは冷凍物のみである。写真のリゾットは冷凍栗を使ったものだが、下記に挙げたサンジョベーゼとの相性もバッチリであった。次の秋には、旬の焼き栗と新酒のワインでぜひ再トライしたいものだと思っている。

ベッラマルシリア モレッリーノ・ディ・スカンサーノ
(Bellamarsilia Morellino di Scansano)
生産地:イタリア・トスカーナ州
生産者:トゥア・リータ
品 種:サンジョベーゼ
価格帯:2200円(税抜)~

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