<vol.43> 鱈とワイン

“世界を変えた魚”と呼ばれている魚がある。「鱈(タラ)」と「鰊(ニシン)」である。ニシンについては、<vol.36>「鰊漬けとワイン」でも取り上げ、北ヨーロッパの歴史にニシンがいかに大きな影響を及ぼしたかについて述べた。今回は、もう一方の魚であるタラについて述べてみたい。

イギリスの代表的な料理に、「フィッシュ&チップス(fish & chips)」というものがある。タラのフライにポテトフライを添えたものだ。また、「ストックフィッシュ(stockfish)」とは、保存用に作られた「干しタラ」を指す。タラは英語で【cod】だが、単に【fish】でタラを指すと言っていいくらい日常生活の中に浸透しているのだ。

シェイクスピアの『テンペスト』の中で、「おまえをストックフィッシュにしてやるからな!(I’ll make you a stockfish!)」というセリフが出てくる。硬い干しタラを料理用に戻すには、ハンマーで何度も叩いて柔らかくし、さらに一晩中水に浸け込んでおく必要がある。つまり、この例えは“おまえをボコボコにして、海に投げ込んでやる”という脅しの意味で使われているのだ。

 世界一周を成し遂げたマセラン艦隊のビクトリア号

じつは、この干しタラこそが、“世界を変えた魚”と言っていい存在なのだ。塩漬けにした干しタラを、ポルトガルでは「バカリャウ(bacalhau)」、スペインでは「バカラオ(bacalao)」と呼ぶ。塩漬けの干しタラは、赤道を越えても腐らないといわれ、冷蔵技術のなかった当時、大航海時代の長期間の保存食にはもってこい。コロンブスの新大陸発見も、マゼラン艦隊の世界一周も、これなしにはあり得なかったと言っても過言ではないくらいの運命的な食材だったのだ。

干しタラはもともと、ヴァイキングが10世紀頃にノルウェーやアイスランドで作り始めたとされる。寒冷で穏やかな気候が、タラの天日干し(寒干し)にぴったりだったのだ。その後、ポルトガルやスペインでも作られるようになるが、比較的温暖な両国は寒干しには適さない。そのため、タラを塩漬けにしてから干すことを考えだす。結果的にこれが、保存性を大きく向上させることになったのだ。

ポルトガルでは、冷蔵技術が発達した今日でも生タラではなく、塩漬け干しタラのバカリャウを圧倒的に食べている。365日毎日食べてもレシピが尽きない、と言われるくらいの“国民的食材”であり、コロッケやかき揚げ、炒め物、サラダにスープ、グラタンやグリルに米料理など、何にでも使われている。何とかこれを味わってみたいものだと探したが、残念ながら北海道にポルトガル料理の店はない。東京には何軒かあるようなので、今度東京へ行った際にでも訪ねてみようと考えていたのだ。

ところが、である。狸小路6丁目の「MALAVOI(マラヴォア)」というフレンチカリビアン料理の店に行った際に、思いがけないものを発見した。メニューに「タラとジャガイモのアクラ」とあるのだ。“アクラ”とは揚げ物の意味で、カリブ海に浮かぶフランス領マルティニーク島の名物料理。水で戻した干しタラと、茹でて潰したジャガイモを混ぜて揚げたものだ。じつは、そっくりの料理が、ポルトガルのバカリャウを使った料理にもあるのだ。

この店の場所には、一昨年まで系列店の「HABANA(ハバナ)」というキューバ料理店が入っていた。マラヴォアのシェフR君は、同じ系列店のBETTY(ベティ)でシェフをしていたが、ベティが西15丁目に移りスウィーツ・カフェとして姉のAさんが引き継ぐことになり、R君は本格的なフレンチカリビアン料理の店として、新たにマラヴォアをオープンさせたのだ。

マルティニーク島は、コロンブスが到達した西インド諸島の中にある。現在はフランス領だが、この地域一帯は大航海時代にスペインやポルトガルの影響を受けている。同じような料理があっても不思議ではないのだ。R君によると、バカリャウは日本では入手が難しいので、北海道産の新鮮な生ダラをほぐして使っており、食感はやや異なるが、味はほぼ似たようなものになるという。

 MALAVOIの「タラとジャガイモのアクラ」

出て来た料理が、これである(上記)。一口食べてみて、“薩摩揚げとコロッケの中間”みたいだ、と感じた。筆者は、薩摩揚げもコロッケも、どちらも好きである。これはもう、旨いに決まっている味なのだ。しかも、ワインに合う!このときは、フランス・ラングドック地方のナチュールの赤をグラスでもらったが、できればポルトガルワインでも合わせてみたいものである。ということで、下記に一本挙げておいた。アクラの作り方は簡単なので、興味のある方は<レシピ>を参考にぜひお試しを。

ヴィーニャ・ダ・マリャーダ(Vinha da Malhada)
生産地:ポルトガル・リスボア地方
生産者:キンタ・ド・モンタルト
品 種:アラゴネス、トゥウリガナショナル、シラー他
価格帯:1800円(税抜)~

タイトルとURLをコピーしました