<vol.42> 世界最古のワイン

JSA日本ソムリエ協会発行の会報誌『Sommelier』1月号に、昨年引退した大相撲・元大関の栃ノ心(ジョージア出身/本名:レヴァン・ゴルガゼ)が「ソムリエ・ドヌール(名誉ソムリエ)」に就任したとの記事が載っていた。これは、ワインの普及とワイン界の発展に貢献した人に与えられる名誉称号だ。

断髪式用に作られた記念ボトルの特製ラベル

栃ノ心は、これまでも母国ジョージアのワインの普及に尽力してきており、引退後は輸入会社を設立するなど、ジョージアと日本との本格的な架け橋になることに強い意欲を示している。ちなみに、同じ称号は昨年、岸田首相にも授与されているが、こちらはワイン界にどのような貢献をしたのか、今もってまったく不明だ。

ジョージアは黒海沿岸に位置する国で、旧ソ連時代を含め長年「グルジア」と呼ばれてきたが、近年、英語表記の「ジョージア」に呼称が改められた。ここでは、8000年前からワイン造りが行われていたことが確認されており、まさに“世界最古のワイン生産国”といえる国なのだ。近年、国の出資で大規模ワイナリーの建設も進められているが、それ以前は長年に渡り各家庭で手造りのワイン生産が行われてきていたという。

ジョージアワインは、「クヴェヴリ」と呼ばれる丸い大きな素焼きの壺を使った、古代以来の伝統的な製法で造られている。収穫して潰したブドウをクヴェヴリに入れて発酵させ、石造りの蔵の土中に埋め込み一定温度で熟成させるのだ。ブドウには農薬や化学肥料を使っておらず、酵母もできる限り野生酵母を主に用いる。2013年には、SDGsの先駆事例としてユネスコの無形文化遺産にも登録されている。

代表的な品種は「サベラヴィ」という赤ワイン用のもの。とにかく濃厚で芳醇、フルーティな味わいだが、土着品種らしい野性味あふれる独特のクセがある。赤身肉のローストや熟成チーズに良く合う。また、このワインはプトレマイオス朝エジプト最後の女王クレオパトラがこよなく愛したと伝えられており、“クレオパトラの涙”とも呼ばれている。

筆者は最初この話を知ったとき、旧ソ連の一角の国とエジプトではいくら何でも遠すぎることから、あくまでも伝説に過ぎないものと思っていた。ところが、である。世界地図をじっくり見てみると、まんざら不可能ではないことに気づいたのだ。“海のルート”である。ジョージアは内陸の国だが、黒海の右岸に面しており、そのまま左岸まで航海し、イスタンブールのボスポラス海峡を通過すれば、そこはもうエーゲ海。さらに、地中海を南下すれば、当時の首都であるアレクサンドリアに比較的簡単に辿り着けるのである。

船であれば、陸路の砂漠を往くより、はるかに大量のワインを安全かつ楽に運ぶことが出来るのだ。陸のシルクロードならぬ、“海のワインロード”とでも呼びたくなる交易路が、ありありと目に浮かぶようである。かのシーザーも、アントニウスも、クレオパトラと共に遙かジョージアからのワインを堪能したに違いない。

ジョージアワインのPRに努める元大関・栃ノ心関

冒頭で紹介した記念ボトルは、2月4日の両国国技館における断髪式会場での限定販売となるそうだが、通常のものは栃ノ心の会社「Royal Georgia」で購入することが出来る。それ以外にも。比較的手に入りやすいものを下記に挙げておいた。世界最古でもあり、SDGsの先駆けでもある“自然そのまま”の味わいを、ぜひ試してみてほしい。

サペラヴィ(Saperavi)
生産地:ジョージア・カヘチ地方
生産者:JSCキンズマラウイ
品 種:サペラヴィ
価格帯:1800円(税抜)~
※クヴェヴリ(レプリカ)を模したボトル入り

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