<vol.40> 飯寿司とワイン

年末に、同じ町内会のT村さんから自家製の「飯寿司(いずし)」をいただいた。さらに、年明けには小清水町の実家に帰省していた妻が、弟夫婦からのお土産として奥さんのA子さん手作りの飯寿司をいただいて帰って来た。どちらも北海道の代表的な魚、サケを使った飯寿司だ。新年早々、ありがたい限りである。

北海道の郷土料理「サケの飯寿司」

飯寿司は、北海道や東北の冬の郷土料理として知られる。魚に米飯と麹をまぶし、細かく切ったキャベツや大根、ニンジン、キュウリ、生姜と一緒に漬け込み乳酸発酵させるもので、各家庭の味として長年に渡り受け継がれてきた。北海道ではサケ、ホッケ、ニシンが主に用いられるが、道南や東北地方ではハタハタが用いられることが多い。

この飯寿司、日本酒のつまみとして古くから好まれてきているが、じつはワインにも良く合うのだ。魚と野菜の熟成した旨味に、米麹の甘みと乳酸のほのかな酸味が調和した味が、ワインに合わない訳がない。このまま食べるなら、白のリースリングかアルバリーニョ、わさび醤油をつけるなら、赤のピノ・ノワールがいいだろう。

飯寿司作りは、とにかく手間がかかると言われる。樽に仕込んで冷暗所に置き約3~4週間、重しを乗せて熟成を進めていく。その間、毎日熟成の具合を観察しながら余分な水分を捨て、重しの重さを微妙に変えるなど、素材と会話するような感覚で丹念に愛おしみながら育て上げていくという。まさに、熟練の技が求められる作業なのだ。

T村さんは、それを自宅マンション玄関横のメーターボックス内の僅かな空間を利用して行うというから、まったく恐れ入る。じつはかく言う筆者も、自宅マンションの地下ロッカールームを簡易的な“ワインセラー”として活用している。冬で12℃~15℃くらい、夏でも20℃~22℃くらいなので、長期熟成用のワインの保存に向いているのだ。こちらは、ただ眠らせておくだけなので楽ではある。

飯寿司はもともと、関西から北陸で馴染みの深い「熟れ寿司(なれずし)」の流れを汲むものだ。熟れ寿司は魚に塩と米飯のみをまぶし、麹は使わない。このため、数カ月から数年間の発酵熟成期間を要するが、味わいは強烈な発酵臭を伴った奥深いものとなる。飯寿司は麹菌の働きにより、数週間程度の短期間で発酵熟成させることができ、味わいもほのかな酸味と甘みを兼ね備えた爽やかなものとなるのだ。

魚を塩漬け発酵させた調理法は、東南アジアがルーツとされる。そのまま食べるというよりも、スープや炒め物の調味料として使われることが多い。いわゆる“魚醤”である。タイのナンプラー、ベトナムのヌクマイ、中国の咸魚(ハムユイ)などは良く知られている。意外なところでは、イギリス生まれのウースターソースの原料にも、塩漬けイワシを発酵させたアンチョビが使われているというから驚かされる。

さて、飯寿司に赤のピノ・ノワールが合うことは前述の通りだが、一口にピノ・ノワールと言っても、国や産地によってさまざまなものがある。ちょうど、<vol.36>「鰊漬けとワイン」で紹介した北イタリアのピノが家にあったので、それに飯寿司を合わせてみたところ、やはり北の風土で育ったもの同士、相性はばっちりであった。

そこで、さらに思いついたことがある。前述の拙宅地下ワインセラーには、現在入手困難と言われる貴重なワインが何本か眠っているのであるが、その中の1本「山崎ワイナリー ピノ・ノワール2020」が、そろそろ飲み頃を迎えようとしているのだ。三笠市にある山崎ワイナリーは<vol.11>で紹介した余市町の「ドメーヌ・タカヒコ」と双璧を成す、北海道のトップワイナリーだ。

山崎のピノは、収穫後2年間の醸造・熟成期間を経て出荷されるが、その後2年間は瓶熟成が必要とされる。つまり、2022年に購入した“2020年もの”が今年2024年の年が明け、いよいよ抜栓カウントダウン段階に入ったのだ。北海道の飯寿司に合わせる北海道のピノとして、これ以上の素晴らしい組み合わせはないと言える。冬が終わる前、飯寿司が手に入るうちにはぜひ、ペアリングを試したいと考えているところだ。

山崎ワイナリー ピノ・ノワール2020(Yamazaki Winery Pinot Noir 2020)
生産地:北海道三笠市
生産者:山崎ワイナリー
品 種:ピノ・ノワール
価格帯:4000円(税抜)~

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