<vol.4> イカめしをイタめしでワイン

JSA日本ソムリエ協会のセミナーで函館へ行ってきた。セミナーのあと、夕食をどこで食べようかと考えたのだが、市電の深堀町電停そばに1年半ほど前に新しいイタリア料理店がオープンしたと聞いたので行ってみることにした。何と言っても“深堀町”である。このブログのキャッチコピーは「飲むより美味しく、ワインを深掘り!」である。まさに。ピッタリではないだろうか。

店の名は「IL Locale(イル・ロカーレ)」という。【locale】とはイタリア語で「地域・地方」の意味。英語の【local】に相当する。その名の通り、イタリアの郷土料理・家庭料理が売り物で、店長のM屋さんはシチリア島で修行してきたという、なかなかのツワモノだ。シチリアと言えば映画「ゴッドファーザー」でも描かれたようにマフィア発祥の地としてその名を知られる曰く付きの島。映画に憧れて訪れる観光客が引きも切らないという。

ところが、このシチリアが近年は高品質のオーガニックワインの産地としても名声が高まってきているのだ。1990年代前半にはマフィアの勢力が全盛を極め、マフィア撲滅の先頭に立っていた二人の判事が爆殺されるなど悲惨な状況が続いた。それから30年。時代は変わるものである。市民による撲滅運動の高まりに加え、高齢化したマフィアの大ボスたちが次々と逮捕され、勢力は縮小。当局に押収された土地が市民に解放され、オーガニック農産物の一大産地へと生まれ変わったのだ。

さて、函館と言えばイカである。イカを使った料理はないかと尋ねたところ、「カラマリ・リピエーニ」というのがあるという。聞き慣れない料理名だが、せっかくなので注文してみた。出てきたのは何と、近隣の森町名物の“森のイカめし”にそっくり!イカの胴体にイタリア風の詰め物を入れ、オリーブオイルたっぷりのトマトソースで食べるといった珠玉の一皿だ。

ワインはシチリア特産の赤「NERO D’AVOLA(ネロ・ダーヴォラ)」をグラスで頼んだ。【NERO】(ネロ)とは「黒」の意味。【AVOLA】(アヴォラ)はシチリア南部の町の名前で、この町から栽培が始まった黒ブドウ品種であることに由来する。これが、じつに良く合う!果実味たっぷりで、まろやかな酸味があり、イカとトマトに絶妙にマッチするではないか。

少々余談ではあるが、一昔前のワインの本を見ると、赤ワインにもっとも合わない料理は「イカの塩辛」である、という記述がよく出ていた。ところが、筆者がよく食べるイカの塩辛は十分に赤ワインと合うのである。自分の舌がおかしいのか、本の記述がおかしいのか、ずーっと疑問に思っていた。

最近、その謎が解けた。筆者が食べているのはイカゴロがたっぷり入った赤茶色をした濃厚なタイプ。これに対しその本で言っているのは、塩だけで造った白色系の品の良いタイプを指しているらしい。これでは赤と釣り合わない。せいぜい白ワインである。ちなみに本物の「森のイカめし」も濃厚なタレで煮詰めており、赤に合う。そもそも、イタリアにだって「イカ墨パスタ」という、赤に合う濃厚な逸品があるではないか!

料理とワインを堪能した御礼にと思い、どうせなら料理名もカラマリなんとかという舌が絡まりそうな名前より、“森のイカめしのシチリア風”とでもしたほうが良いのではないだろうか?とアドバイスしてみたが、これについてはいまいちノリ気ではなさそうなのであった。

ネロ・ダーヴォラ 2016 モルガンテ(NERO D’AVOLA 2016 MORGANTE)
生産地:イタリア・シチリア州
生産者:モルガンテ
品 種:ネロ・ダーヴォラ
価格帯:1900円(税抜)~

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