<vol.39> ラーメンとワイン

ラーメンにワインを合わせる。そんな発想は、つい最近までさすがの筆者にもなかった。そもそも、中華料理店はともかく、ラーメン専門店でワインを置いてあるところなど見たことがない。ところが、である。エノテカのサイトをはじめ、さまざまなペアリングサイトでは、ラーメンとワインの合わせ方が、しっかりと紹介されているのだ。どうもこれは、近年の海外でのラーメン人気に関係があるらしい。

椎名誠が最近のエッセイの中で、ニューヨークに住む娘を訪ねていった際に体験した、現地のラーメン事情について書いていた。それによると、日本のラーメン店のようにサッと入ってカウンターでサッと食べサッと出るというファストフード型とは、かなり様子が違うらしい。サラダや枝豆、フライドポテト、手羽先、唐揚げ、焼き鳥、チャーシュー、鰻、たこ焼きなど、居酒屋並みのサイドメニューがあり、ドリンクもワインや日本酒、ビールなど、豊富に揃っているという。

そうなると、ワインを飲みながら前菜などアラカルトをつまみ、メインにラーメンを食べるという、レストランのようなスタイルとなる。店内も高級感あふれる和風の落ち着いた空間で、いわゆる“ラーメン・ダイニング”といったところだろうか。料金はラーメン一杯が18ドル~20ドル(2500円~3000円)、ドリンクや他の料理も含めると50ドル~70ドル(7000円~10000円)にもなるらしい。これはもう立派な、高級ディナーといった感じである。

もっとも人気があるのは、日本から進出した「一風堂」や「一蘭」など、豚骨ベースの濃厚系の店で、醤油系はあまり好まれないそうだ。そして、最近人気が高まっているのが「札幌味噌ラーメン」を出す店だという。これは、札幌に本社を置く西山製麺が現地法人としてNISHIYAMA RAMEN U.S.A. Inc.を設立したことが大きい。札幌で出しているのと同じ“熟成ちぢれ麺”を独自の冷凍技術を用いて輸送しているのに加え、折からの和食ブームで発酵食品である“味噌”に感心が高まっていることも影響しているらしい。

西山製麺といえば、札幌ラーメンの象徴ともいえる“熟成ちぢれ麺(多加水熟成麺)”のトップメーカーである。戦後まもない1947年(昭和22年)、屋台ラーメンの「だるま軒」から始まり、1953年(昭和28年)には「西山製麺所」を設立し製麺専門会社として歩み出す。翌1954年(昭和29年)には、同じくラーメン店を営んでいた「味の三平」が味噌汁をヒントに工夫を重ね、熟成ちぢれ麺を使った「味噌ラーメン」を開発する。一説では、客からの要望で豚汁に麺を入れてくれと頼まれたのがきっかけと伝えられていたが、これは俗説である。

その後、1955年(昭和30年)に雑誌『暮らしの手帖』の編集長・花森安治が味の三平の味噌ラーメンを食べ、“ラーメンの街・札幌”として記事に取り上げたことで、店は大繁盛。他のラーメン店や飲食店も追随し味噌ラーメンを出すようになり、多くの観光客がこれを目当てに訪れるようになったという。ただし、これはあくまでも札幌という一地方都市でのブームであり、その後の全国ブランドとしての“札幌味噌ラーメン”を確立するまでには至らない。それには、別の2つの大きな要因があったのだ。

一つは、1966年(昭和41年)に発売されたサンヨー食品のインスタント麺「サッポロ一番」である。当初は醤油味だったが、1968年(昭和43年)には、「サッポロ一番みそラーメン」を発売する。「♪サッポロ、サッポロ、サッポロ一番~みそラーメン♪」でおなじみのCMは、現在も使われているというから驚きだ。このCMがゴールデンタイムで流れることで、札幌味噌ラーメンの知名度は、子どもから大人まで全国で知らない人がいなくなるくらいに高まるのだ。

もう一つは、時をほぼ同じくして1967年(昭和42年)に東京両国で1号店が開店したラーメンチェーン「札幌ラーメン・どさん子」だ。ピーク時には国内外1000店舗を超える一大チェーンとして、大規模なフランチャイズ展開を行うまでになる。じつは当初、どさん子の創業者は北海道へ行ったことがなく、札幌味噌ラーメンなど食べたことがなかったという。たまたま北海道物産展で見かけたものをヒントに、北海道らしさを強調するためにコーンを入れるなどして独自に作り上げたのが、“どさん子の札幌味噌ラーメン”だったのだ。

「味の時計台の味噌ラーメン」にコーンをトッピング

札幌で食べる味噌ラーメンには、トッピングで頼まない限りコーンは入っていない。しかし、多くの人にとって札幌へ行かずとも食べられる“本場の味”として、このスタイルは爆発的な人気を呼ぶ。じつは、何を隠そう筆者も、初めて食べた札幌味噌ラーメンは、1970年代末に東京で食べたどさん子のものであった。現在、札幌にはニューウェーブ系も含め、さまざまな味噌ラーメンが存在する。ただ、ときどき無性に“原体験の味”が食べたくなることがある。そんなとき入るのが、札幌に本社を置く「味の時計台」チェーンだ。あの日の味に、かなり近いような気がしている。

ここでもう一度、世界に目を転じる。海外でのラーメンブームはアメリカだけではなく、ヨーロッパやアジアも含め世界中に広がっている。なぜいま、こんなにも人気なのか?その理由は、2000年代に世界80カ国以上で放映された日本のアニメ「NARUTO-ナルト-」である。主人公のうすまきナルトが、毎回旨そうにラーメンを食べるシーンが、当時の少年少女たちに鮮烈に焼き付いているのだ。NARUTOは忍者の修行を通した成長物語であり、あの一杯に忍術パワーの源泉を感じたとしても不思議ではない。

さて、ワインである。ニューヨークのようにレストランスタイルで食べるとなると、さまざまな一品料理が先にある訳だが、やはり肉主体のものが多いようだ。それに合わせるとなると、フルボディの赤ということになる。日本でそういうスタイルはまずないと思われるので、純粋に中華麺に合うワインとして、微発砲のロゼを下記に挙げておいた。以前に<vol.17>「あんかけ焼きそばとワイン」でも紹介したが、筆者はこれが一番気に入っている。

フェイティセイラ ロゼ・微発泡(Feiticeira Rose)
生産地:ポルトガル・ミーニョ地方
生産者:カサ・デ・ヴィラ・ヴェルデ
品 種:ヴィーニャオン、トウリガ・ナショナル他
価格帯:1000円(税抜)~

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