<vol.34> おでんとワイン

冬が近づくと、おでんが恋しくなる。かつて札幌には、名店と呼ばれたおでん屋が何軒かあった。その代表といえるのが、ススキノにあった関東風おでんの「深谷」と、札幌駅前の読売ビルに入っていた関西風の「かつや」だ。残念なことに、いつのまにか両店とも閉店してしまい、それ以降しばらく「これは!」というおでん屋には巡り会えずにいた。

札幌ススキノ「さんかくまるしかく」のおでん

そんなある日、たまたま目にしたタウン誌を見て知ったのが、ススキノにある「さんかくまるしかく」というおでん屋だ。惜しくも閉店したあの「かつや」の味を受け継ぐことを目指し、数年前にオープンしたという。しかも店主が、筆者が30年以上前に勤めていた会社で一緒だった、グラフィックデザイナーのT賀さんだという。何はともあれ、早速行ってみたのだった。

店名の“さんかくまるしかく”とは、赤塚不二夫の漫画「おそ松くん」に登場するチビ太が持っていたおでんからイメージしたそうだ。たしかに、おでんの原点ともいえるシンプルな造形を表わしている。店内は隅々に至るまでデザイナーらしいこだわりに満ちており、民芸調をベースにした落ち着いた空間になっていた。

おでんに合う辛口の日本酒を置いているのはもちろんだが、うれしいことにワインもあるのだ。“おでんにワイン”が合うのは、<vol.14>で述べた“焼き魚とワイン”と同様に、筆者がつねに力説しているところである。おでんには、練り物系のちくわやさつま揚げ、はんぺん、豆腐系の厚揚げやがんもどき、魚介系のタコや昆布、さらに卵やコンニャク、大根など、さまざまな具材が煮込まれている。

これだけ多彩だと、一見どんなワインを合わせるべきか迷ってしまうが、共通項は“つゆ”である。カツオと昆布の出汁に、それぞれの具材から出た旨味が複雑に溶け込んだつゆこそ、おでんの命といえる。白なら塩味系のアルバリーニョかキリッと辛口の甲州、赤ならピノ・ノワールが合う。とくにピノは<vol.12>でも述べたが、ブドウの果皮よりも果汁由来の味が引き立ち、出汁が効いたような特徴を持つため、同じ味覚構造を持つおでんなどの和食とは最高の相性となる。

では、この店で置いているワインは何なのか?それが何と、イタリア南部プーリア州の赤「プリミティーボ」なのだ。これには筆者も驚かされた。このワインは濃厚でパワフルな味わいを持つ、いわゆる“フルボディ”タイプ。肉料理やシチューなどの煮込み、熟成したチーズなど、濃い目のイタリアンの定番なのだ。繊細さが売りのおでんとはミスマッチではないのか?と思ったが、その疑問はすぐに解けた。

じつはこの店の一番人気は、“牛スジ”のおでんだったのだ。他の具材ももちろん美味しいのだが、リピーター客が必ず注文するのが、この牛スジだという。頼んでみると、たしかに絶品であった。たしかに、プリミティーボに合う!さらに、トマトやチーズのおでんなど、赤ワインに合いそうなメニューもあるという。この日はすべて頼めなかったが、次回のお楽しみとしたい。欲を言えば、ワインをもう1種類、出来ればピノ・ノワールも置いてほしいところだが、無理かなあ。

リッツァーノ プリミティーボ ディ マンドゥーリア マッキア
(Lizzano Primitivo Di Manduria Macchia)
生産地:イタリア・プーリア州
生産者:リッツァーノ
品 種:プリミティーボ
価格帯:1600円(税抜)~

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