<vol.31> トマトとワイン

「トマトはイタリアの味噌である」。これは、以前に雑誌『ブルータス』がイタリア料理特集を組んだときの見出しの一節だ。たしかに、イタリア料理といえば、トマトソースとオリーブオイルがつきもので、あらゆるものに使われている。ワインとの相性は言うまでもない。同じく長い歴史を持つ国同士、日本の伝統的食文化の象徴である“味噌”に例えて語られるあたり、言い得て妙と感心したものだった。

ところが、である。日本の味噌の起源が奈良時代からとされ、1200年以上の歴史を持つのに比べ、イタリア料理にトマトが使われ出してから、まだ100数十年しか経っていないという。考えてみれば、たしかにそうだ。トマトはもともと中南米原産で、コロンブスの新大陸発見後、15~16世紀の大航海時代を経てヨーロッパにもたらされたものなのだ。

しかも、最初は食用としてではなく、貴族の館の庭などに植えられ“観賞用”として楽しむものだったという。トマトはイタリア語で【pomodoro(ポモドーロ)】と言い、「黄金のリンゴ」という意味を持つ。当時のトマトは色も赤ではなく、黄色かオレンジ色で、皮は厚く実はかなり硬かったらしい。また、ナス科の有毒植物の実とよく似ていたため、同じように毒があるものと思い込まれていたのだ。

その後、トマトに毒がないことが知られるようになってからも、“冷たくて水気の多い”食べ物は体に良くないとみなされており、好んで食べられることはなかった。料理の素材として広く用いられるようになるのは、ようやく19世紀末のこと。トマトがイタリアに伝わってから、なんと300年以上の年月を要したことになる。ただし、この段階でもまだトマトは夏季限定の旬のもの。水気が多いため腐りやすく、通年利用は難しかったのだ。

トマトの水煮缶「ポモドーロ」

20世紀初頭、画期的な新商品が発明される。「トマトの水煮缶」である。缶詰自体は19世紀にイギリスで誕生し、その後アメリカでキャンベルやハインツがスープ缶を発売することで、飛躍的に普及した。この缶詰の持つ保存性の高さに目を付けたのが、北イタリア・トリノの実業家であるフランチェスコ・チリオという人物だ。彼が発売した「皮むきホールトマト缶」こそが、今日のイタリア料理の象徴ともいえる“トマトソース”を、誰もが簡単に一年を通して作ることが出来るようにした決定的アイテムとなったのだ。

さらに、同時期にアメリカに渡った大量のイタリア移民が、トマト味の料理を“イタリアの味”として浸透させることにも一役買う。パスタやピザはもちろん、肉・魚介・野菜などの煮込み、サンドイッチやフォッカッチャの具材としてなど、トマトソースを使ったさまざまな料理が、彼らの店を通し全米各地へ、そして世界へと広まっていく。

そんなトマト料理に合うワインは、料理ごとに多種多様に挙げられるが、まずは基本中の基本、イタリアの国民酒ともいえる「サンジョベーゼ」をおすすめしたい。以前にも<vol.13>の「最後の晩餐とワイン」で紹介したが、より気軽に飲めるタイプを下記に挙げておいた。イタリア北部のエミリアロマーニャ州でオーガニック栽培のブドウにより造られている、コスパにも優れた筆者お気に入りの一本だ。

オッドーネ ロマーニャ サンジョベーゼ スペリオーレ(Oddone Romagna Sangiovese Superiore)
生産地:イタリア・エミリアロマーニャ州
生産者:テヌータ・ラ・ヴィオラ
品 種:サンジョベーゼ
価格帯:1600円(税抜)~

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