<vol.28> 鹿肉とワイン

野生の鳥獣は冬に備えて栄養を蓄えるため、秋~冬のフランスでは狩猟が解禁となり、ジビエ(狩猟肉)の旬を迎える。中でも鹿肉は、最上のジビエとして特別に扱われている高級食材だ。北海道には65万頭を超える大量の「エゾ鹿」が生息しており、その肉質の良さは世界的にも高い水準にあるという。

3年ほど前、筆者は北海道観光の仕事の取材で札幌ススキノにある「鹿肉SLOW DOWN(スロウダウン)」という鹿肉料理専門店を訪ねたことがある。鹿肉自体は、ジンギスカンの店でもよく出されているので食べたことはあるが、本格的な専門店で味わうのはこのときが初めてだった。

鹿肉SLOW DOWNの「仔鹿のロースト」

一番人気の「仔鹿のロースト」は、来店客の9割が注文するという超人気メニューだ。味わった感想は「まさに、肉!」。脂身がまったくない“筋肉の塊”を食べている感じだ。一見レアのように見える赤身肉だが、しっかり火は通っており、かつ柔らかくクセがない。黒粒コショウ、山ワサビ、特製ミョウガソースなどが添えられており、それぞれごとに絶妙な味わいであった。

このときに合わせたワインはカリフォルニアのジンファンデルだったと思うが、現在はチリの「コノスル オーガニック」を常備している。やはり基本はタンニンがしっかりとあり、果実味とスパイシーさが程良く感じられるものがベストだ。その点このワインは、カベルネ・ソーヴィニヨンをベースにカルメネールとシラーをブレンドしてあるので申し分ない。スーパーなどでも手に入りやすいので、巻末に挙げておいた。

近年、このエゾ鹿の増え過ぎが大きな問題になっている。農業被害や森林破壊、クルマや列車との衝突など、被害は深刻だ。エゾ鹿の祖先は約6万年前の氷期、大陸とサハリン、北海道が地続きだった時代に北方から渡ってきたとされる。その後、北海道の生態系は草食性のエゾ鹿、それを食べる肉食性のエゾオオカミ、肉、魚、木の実、何でも食べる雑食性のヒグマの三者によって長期間に渡りバランスが保たれてきたのだ。

明治の開拓期、酪農と畜産が導入され、これを襲うオオカミを駆除したことから異変が起こり始める。エゾ鹿の天敵がいなくなってしまったのだ。その後、輸出用の毛皮や肉の乱獲で一時は絶滅寸前となるが、狩猟禁止の保護政策を打ち出したことで、再び増加に転じる。今日騒がれている、かつてないほどの生息数というのは、このような歴史的結果なのだ。

vol.18>の「縄文人とワイン」でも書いたが、牛、豚、鶏などの家畜肉を食べるようになったのは明治以降のことであり、日本人にとってもっとも付き合いの長い肉は、じつは“鹿肉”だったのだ。しかも、鉄分やタンパク質が豊富で、ワインとの相性も抜群だ。それだけに、もっと手軽に買えるようにならないかと思っていたのだが、最近ではコープさっぽろの大型店をはじめ、取扱店が少しずつ増えてきているのはうれしい限りだ。

ところで、筆者が懇意にしているデザイン会社・S社では、数年前まで毎年末の仕事納め会で、十勝方面で仕留めたエゾ鹿肉をシチューや燻製にして振る舞うのが恒例となっていた。コロナ禍でしばらく中断していたのだが、今年あたりから復活してくれないものかと密かに期待している。とびきりのワインを持参して駆けつけたいと思っているのだが、どうだろうかなあ?

コノスル オーガニック(Cono Sur Organic)
生産地:チリ・セントラルヴァレー
生産者:ヴィーニャ・コノスル
品 種:カベルネ・ソーヴィニヨン+カルメネール+シラー
価格帯:1200円(税抜)~

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