<vol.26> パエリアとワイン

函館にパエリアで評判の店がある。その名も、パエリア専門店「マルモンターニャ(mar y montana)」だ。スペイン語で【mar】は「海」、【montana】は「山」の意味。バルセロナで6年間修行を積んだ店主のS田さんが、北海道の“海と山の幸”をふんだんに使った極上のパエリアを提供してくれる。

マルモンターニャの「魚介のパエリア」

じつはこの店、去年の春から1年以上も休業していた。以前は五稜郭に近い場所に合ったのだが、水漏事故が直らず、結局この夏に花園町の稲荷神社前に移転しての再オープンとなったのだ。開店を心待ちにしていた人たちで、なかなか予約が取れない状況だったが、9月末にようやく予約を取ることが出来たのだった。

以前、<vol.14>では赤ワインにもっとも合わない食材は「白米」である、と書いた。ただし、それは“白飯”をそのまま合わせた場合であって、“米料理”となると話は別だとも書いた。なかでも、魚介類や肉を米と一緒にオリーブオイルで炒めて炊き上げるパエリアは、赤ワインに最高に合う料理だといえる。

「パエリア」とはもともと金属製の鍋=フライパンの意味で、8世紀の初めにイベリア半島がイスラム勢力に支配されていた時代に伝わったとされる。イスラムの人々は同時に、米作りも伝えた。ヨーロッパで初めて稲作が行われたのが、現在のスペインのバレンシア地方だということだ。

ということは、もともと海産物などの食材が豊かで、良質のオリーブオイルの産地だったところに、米と金属製鍋という新たな要素が加わったわけだ。まさに、料理としてのパエリアを誕生させるための条件が揃っていたということになる。ただし、もともとは野ウサギや鶏、インゲン豆、トマトなど、山の幸を多く用いるのが当初のスタイルだったらしい。そういう意味で、マルモンターニャの店名の意味“海と山の幸”という併記は歴史的に正しい。

ところで、本場スペインではパエリアは夜ではなく、昼に食べるものらしい。これは、間食を含めて一日5回という独自の食習慣にも関係し、メインの食事がディナーではなく午後2時~4時に設定されたランチとなるからだ。パエリアはこの時間帯に食べられることが多く、ディナータイムは夜9時~10時くらいになるため軽いもので済ませるのが一般的だそうだ。

マルモンターニャでは「魚介のパエリア」に合わせて、スペイン特産の赤ワイン「テンプラニーリョ」を注文した。このワインは<vol.3>でも“織田信長が飲んだワイン”として紹介したが、パエリアに限らず、スペイン料理全般との相性は抜群である。イタリアのサンジョベーゼと同様に、肉・魚を問わず何にでも合う“国民酒”のようなものなので、気軽に味わうことが出来る。

現在、スペインは世界第3位のワイン生産国であり、栽培面積としては世界第1位となる。ブドウ栽培に最適な風土を持ち、約3000年前からワインが造られてきたが、イスラム支配による中断の歴史や、20世紀半ばのフランコ将軍の独裁体制の影響でワイン産業は長らく停滞状態にあった。その後、若手の醸造家を中心に復興の動きが起こり、沿海部や山岳部など土地のテロワール(風土)を反映した個性的なワインが続々と誕生するに至っている。安価で良質なスペインワインは日本国内でも豊富に出回っているので、ぜひ常備ワインとすることをおすすめしたい。

ファン・ラモン ティント(Juan Ramon Tinto)
生産地:スペイン・ラ マンチャ地方
生産者:フェルナンド・カストロ
品 種:テンプラニーリョ
価格帯:1200円(税抜)~

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