“カレーとワイン”というと、「そんなもの合う訳がないだろ!」とほとんどの方が思うに違いない。筆者も長いことそう思い込んでいた。カレーのあのスパイスたっぷりの強烈な味に、繊細なワインを合わせたら、お互いがお互いを殺し合い、何の味覚的相乗効果も生まれないものと普通は思う。
ところが、である。ワインの勉強をするようになって初めて知ったことだが、テキストや参考文献によると、「カレーとワインは合う」とはっきり書いてある。市販のペアリングブックやWEBのペアリングサイトを見ても、カレーの種類ごとの具体的な合わせ方が豊富に出ているのだ。
インド・ネパール料理店「サガラマタ チュラ」
ちなみに、ワインを抜きにしても筆者は大のカレー好きであり、とくに本格的なインド・ネパールカレー、またはスープカレーは週に一度以上は食べている。なかでも、かれこれ10年ほど通っているのが、JR桑園駅近くにある「サガラマタ チュラ」というネパール人が経営するインド・ネパール料理店である。
筆者のお気に入りは、「キーマカレー」の辛さ3番だ。たっぷりのタマネギと鶏挽肉を炒めたシンプルな逸品だ。以前は店内で食べていたが、コロナ禍以来テイクアウトの習慣が付き、現在はもっぱら土曜日の昼に家で食べているのだが、カレーの量が少々多い。残りを冷蔵庫に保管し、夜にナンまたはパンと一緒に食べることが多いのだが、その際にワインと合わせてみることにした。
赤はピノ・ノワール、白はヴィーニョ・ヴェルデで合わせてみたが、普通の挽肉料理(キーマ)をワインで味わう感覚で、まったく違和感がなかった。むしろビールと合わせた場合に、炭酸の働きで辛さのみが際立ってしまう傾向にあるのに比べ、ワインはカレー全体の風味を損なうことなく、ごく自然な相性となると感じた。
考えてみると、カレーはクミン、コリアンダー、カルダモン、ターメリック、レッドペッパーなどなど、10数種類のスパイスやハーブの組み合わせで出来ている。じつは、ワインの味わいも何層にも重なり合った複雑な風味の集合体を成しており、それらの風味を表すテイスティング用語でも、カレーと共通のスパイスやハーブ類の名称がよく使われている。つまり、カレーとワインは似たもの同士だったのだ。
ペアリングブックを見ると、カレーの種類に応じたワインの合わせ方が詳しく紹介されている。ビーフやチキン、ポークなど肉を主にしたカレーには、マルベック、カベルネ・ソーヴィニオン、シラーズ、ジンファンデル、サンジョベーゼなどの赤ワイン。シーフードカレーやタイカレーには、ヴェルメンティーノやリースリング、ピノグリ、ゲヴェルツトラミネールなどの白ワイン。ただし、組み合わせは必ずしもその通りではなく、柔軟に考えてよいらしい。
ところで、インドは世界的に見ても認知症患者が少ない国だといわれる。どうも、その理由が毎日食べているカレーにあるらしいのだ。とくに、ターメリックに含まれる「クルクミン」というポリフェノールの一種が、脳細胞の増加に欠かせない「神経栄養因子」というものを増やす効果があり、認知症の予防につながるというから興味深い。
近年、成長著しいインドは「世界の第3極」と呼ばれ、超大国相手の巧みな外交手腕で注目される。ロシアのプーチン大統領や中国の習近平主席とも一定のパイプを持ち、アメリカのバイデン大統領が絶えず気を遣い、日本の岸田首相が挨拶に訪れるなど、独自の存在感を示す。カレーは一見個性が強すぎ、合わせるのが難しそうな印象だが、じつは赤・白どんなワインでも合わせられ、肉、シーフード、野菜、どんな食材でも煮込むことができる。まさに、今日のインドの姿に重なって見えてくるではありませんか!
さて、巻末に挙げるワインだが、カレーにはどんなワインでも合うとなると何を選ぶか困ってしまった。せっかくなので、今回はインド産ワインを紹介することとしたい。じつはインドでは紀元前4世紀頃からワイン造りが行われており、19世紀に禁酒令により一時衰退していたのだが、近年また復活し欧州市場を中心に高い評価を得ているのだ。インド産に限らずとも、ワインとカレーのペアリングという新体験を、この機会にぜひおすすめしたい。
右 :スラ・ヴィンヤーズ シュナン ブラン(Sula Vineyards Chenin Blanc)
生産地:インド・ディンドリ地方
生産者:スラ・ヴィンヤーズ
品 種:シュナン ブラン
価格帯:1600円(税抜)~
左 :ディンドリ・リザーヴ・シラーズ(Dindori Reserve Shiraz)
生産地:インド・ディンドリ地方
生産者:スラ・ヴィンヤーズ
品 種:シラーズ
価格帯:2600円(税抜)~