<vol.23> 新子焼きとワイン

8月下旬に旭川へ行く機会があったので、旭川のソウルフードともいえる「新子焼き」の店に行ってみることにした。新子焼きとは、若鶏の毛羽を含む骨付き半身を素焼きにした料理だ。そもそも“新子”とは、江戸前寿司でお馴染みの「コハダ」の4~5㎝までの稚魚のこと。同様の意味で若鶏を「新子」と呼んでいたことに由来するらしい。旭川の新子焼きは、2021年(令和3年)には文化庁の「100年フード」にも認定されている。

新子焼きが誕生したのは戦後すぐの1946年(昭和21年)頃とのこと。ということは、1960年代に米国からブロイラー(食肉用若鶏)が導入される10数年前。当時の鶏肉はたいへんな高級食材であり、現在のように気軽に食べられるものではなかったはず。年に何度か口に出来るかどうかの“庶民のごちそう”として、当時から大切に受け継がれてきていたらしい。

旭川「焼き鳥専門ぎんねこ」の新子焼き

今回訪れた「焼き鳥専門ぎんねこ」は1950年(昭和25年)創業の老舗だ。予約は受け付けておらず、空席待ち必至を覚悟で向かったが、比較的すぐに入ることが出来た。新子焼きを頼むと、タレか塩、またはタレ・塩半々のハーフのどれにするかと聞かれるが、筆者は焼き鳥は断然“タレ派”なので、迷うことなくタレを注文した。

焼き上がるまで、およそ30分。ワインのハーフボトルがあるというので、「VAL GRAND」という赤を注文したら、フランス・ローヌ地方のメルロであった。ローヌの赤は、果実味が豊かで焼き鳥タレ味との相性が抜群である。焼き鳥店でこの手のワインを置いているとは、かなり分かっているといえる。いやが上にも期待が高まるではありませんか!

出てきた新子焼きは、こんがりと焦げ目の付いたほど良い焼き加減で、半身に絡んだタレが何とも香ばしい。タレ派の筆者は、北海道の焼き鳥屋で“これは!”という旨いタレに出合うことはまずないと日頃から嘆いているのだが、ここのタレには驚いた。まろやかで深みがありながら、ベトつかずキレがいい。聞いてみると、使っている醤油が地元メーカーのものだという。

「なるほど、醤油が違うのか・・・」と納得しつつ、ふと頭に浮かんだのは「旭川ラーメン」の存在だ。札幌の味噌、函館の塩と並び、旭川ラーメンは醤油が一推しとされる。その特徴として、魚介類と豚骨・鶏ガラを合わせたWスープのことがよく言われてきたが、じつは地元産の醤油にこそ旭川ラーメンたらしめる本質があったのだ。地元の醤油メーカーとは、「キッコーニホン」のブランド名を冠した日本醤油工業(株)のこと。旭川のラーメン店のほとんどが、ここの醤油をスープに使用しているという。

それにしても“キッコーニホン”とは変わった名前だが、旭川駅から車で5分ほどの場所に、はるか昔にタイムスリップしたかのような古い建物がある。看板には、キッコーマンと同じ六角形の亀甲型の中に「日本」と書かれた独特のマークがあり、ひときわ目を引く(参照⇒https://www.kikkonihon.co.jp/)。醤油醸造業としての創業は、1944年(昭和19年)。ということは、新子焼き誕生の歴史とほぼ重なるということだ。

さらに言えば、旭川ラーメンの老舗である「蜂屋」が1947年(昭和22年)の創業であるから、キッコーニホンの醤油誕生に足並みを揃えるかのように、新子焼きとラーメンが続々と誕生したことになる。まさに、“旭川名物の陰に地元醤油あり”といったところだが、じつはこの会社、醤油醸造業の前身が酒造業で、しかも創業が1890年(明治23年)というから、これはほとんど旧・旭川村の開村と同時である。

そう考えると、旭川の地に開拓の第一歩が印された日から、醤油、新子焼き、ラーメンの3兄弟は、生まれるべくして生まれるように運命づけられていたとも思えてくるではありませんか!旭川という街は、なかなか味のある歴史物語を秘めた街なのであった。

ラ・ロッシュ・ビュイシエール・フロンフロン(La Roche Buissiere Flonflon)
生産地:フランス コート・デュ・ローヌ
生産者:ラ・ロッシュ・ビュイシエール
品 種:グルナッシュ主体+シラー
価格帯:1950円(税抜)~

※ローヌ地方の赤はメルロよりグルナッシュ主体がおすすめだ。

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