<vol.21> 大相撲とワイン

8月中旬、札幌市スポーツ交流施設“つどーむ”で行われた「大相撲巡業札幌場所」の観戦に行ってきた。以前は毎年開催されていたが、コロナ禍で中断しており、じつに4年ぶりの札幌巡業であった。気の早い読者の方は、さてはワインを飲みながら相撲観戦して幕の内弁当が旨かったとか、そんな話でもするつもりだろうと思われたかもしれないが、そうではない。じつは、大相撲とワインには共通点が多い。今回はそんな話である。

札幌巡業での幕内力士土俵入り

大相撲には「番付」というものがある。序の口から始まり、序二段、三段目、幕下、十両、前頭、小結、関脇、大関と続き、最上位に横綱が君臨する。番付は相撲界における絶対的な序列で、給与も待遇もこれに基づいて決められる。これに対しワインには「格付」というものが存在する。格付の基準は国によっても多少異なるが、もっとも厳格な基準が設けられているのは、やはりフランスということになる。

フランスワインの格付は3つの大きな階層を成している。最上位が「AOC(Appellation D’origine Contrôlée)」=原産地呼称保護ワイン、次が「IGP(Indication Géographique Protégé)」=地理的表示保護ワイン、その下が「Vin de Table」=テーブルワインとなる。AOCはボルドーやブルゴーニュなどの産地名、IGPはペイ・ドックなど広域地方名、Vin de Tableは通常Vin de Franceと表記され、単にフランスワインという意味だ。

相撲の番付で例えれば、AOCが幕内力士、IGPが十両力士、Vin de Tableが幕下以下の全力士といった感じかな、と大雑把に定義してみた。また、幕内力士が前頭、小結、関脇、大関、横綱とあるように、AOCの中身もさらに厳格な基準で細分化されている。ボルドーの場合、60を超えるシャトー(生産者)が1級から5級までに格付されている。ブルゴーニュの場合は、生産者ではなくブドウ畑に対して格付されており、上から特級畑、1級畑、村名ワイン、地方名ワインの4つとなる。

西の横綱ともいえるのが、ボルドーのメドック地区で1級のシャトー・ラフィット・ロートシルトをはじめとする5大シャトーだ。これは、相撲で例えれば横綱・照ノ富士といっていい。どんなに肉厚な重量級力士のぶち当たりでもがっちりと受け止め、落ち着いた四つ相撲でしっかりと寄り切って相手を料理する。まさに横綱相撲の真髄ともいえる取り口は、どんなボリュームたっぷりの肉料理にでも見事に調和する、カベルネ・ソーヴィニオンを主体としたボルドー最上級のイメージにふさわしい。

東の横綱はといえば、ブルゴーニュの特級畑となる(地理的にも東にある)。もっとも良く知られているのは、ヴォーヌ・ロマネ村のロマネ・コンティだろう。相撲で例えるなら、すでに現役は引退したが、前人未踏の優勝45回という大記録を打ち立てた元横綱・白鵬(現・宮城野親方)かと思う。右四つでも左四つでも取れる巧みな取り口。“後の先”と呼ばれる立ち会いの妙、かち上げや張り手といった荒技で「横綱らしからぬ」と批判されながらも徹底して勝負の鬼となる姿は、華やかさと繊細さ、力強さを併せ持つピノ・ノワールに重なる。

ところで大相撲には、平幕が横綱に勝利する「金星」というものがある。また、幕尻(幕内最下位)の力士が大番狂わせで優勝する「幕尻優勝」というものもある。2020年(令和2年)初場所での前頭17枚目・徳勝龍のまさかの初優勝がそれだ。じつは、ワインの世界でもかつて、大金星の幕尻優勝ともいえる“歴史的大事件”があった。それは、「パリスの審判」と呼ばれている。

1976年、「アメリカ建国200年祭」のこの年、世界各地ではさまざまな記念イベントが開かれた。その1つとしてパリで開催されたのが、カリフォルニアワインとフランスワインとのブラインドテイスティング対決である。200年祭とは直接関係ないが、奇しくも同じ年の6月26日、アントニオ猪木対モハメッド・アリの「格闘技世界一決定戦」が東京北の丸の日本武道館で開催されている。(たしかに、関係はない)

ブラインドテイスティングとは、ワインの銘柄名を伏せて数種類を試飲し、得点を競い合うもの。赤・白それぞれ、フランス4種類、カリフォルニア6種類で審査が行われた。成長著しいカリフォルニアワインは注目こそされてはいたものの、伝統あるフランスワインの足下にも及ぶ訳がない、と誰もに思われていた。フランスの赤ワインはボルドーのシャトー・ムートン・ロートシルト、白ワインはブルゴーニュのモンラッシェなど横綱クラス揃い。まさに最強の布陣である。ところが、である。結果は驚愕すべきものとなった。

赤・白ともに、カリフォルニアワインが1位を独占してしまったのである。しかも、審査員は全員フランス人。ワイン業界を代表する著名人ばかりである。銘柄名を隠したブラインドテイスティングでは、伝統国のブランド力など通用しない。本来の味で勝負するしかない。その結果、東西の両横綱が幕尻力士ともいえる新参のカリフォルニアワインに敗れてしまったのである。この事実は世界中に衝撃を与え、以来この審査結果は「パリスの審判」と呼ばれるようになったのである。

納得いかないのはフランス側である。当然“物言い”は付いた。「フランス産はアメリカ産と違って熟成を必要とする。30年後の品質で比べるべきだ」と。では30年後に再び勝負しようということとなり、“取り直し”となったのが2006年のこと。軍配はまたしても、カリフォルニアワインに上がったのであった。

いまやカリフォルニアワインは、新世界ワインの筆頭として、高品質の評価を揺るぎないものにしている。一方、奇蹟の幕尻優勝で名を上げた徳勝龍は、その後幕下に陥落。今後の幕内復帰も期待出来そうにない。勝負の世界は厳しいが、いささか残念でもある。

シャトー・ムートン・ロートシルト(Chateau Mouton Rothschild)
生産地:フランス・ボルドー・メドック地区ポイヤック
生産者:シャトー・ムートン・ロートシルト
品 種:カベルネ・ソーヴィニオン+メルロ主体
価格帯:99000円(税抜)~

※ロスチャイルドはロートシルトの英語読み。

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