先日、以前に勤めていた会社で一緒だった室蘭出身の友人・S乃さんが、久々に遠方より里帰りするというので、ゆかりの者たち数人で室蘭を訪れた。室蘭といえば、何と言っても「室蘭焼き鳥」である。せっかくなので、名店の誉れ高い「やきとりの一平」本店へ行ってみることにした。
感心したのは、さすがは本店だけのことはあって、ワインの種類が充実していることだ。札幌にも一平はあるが、置いてあるワインはせいぜいグラスで赤・白の各1種類程度。ところがここには、赤5種類、白5種類の計10種類ものワインが常備されているのだ。メニューには丁寧な解説も付いており、その中から「室蘭焼きとりにピッタリ」と書かれた、お勧めのシチリア産シラー「アランチョ」と焼き鳥を何種類か併せて注文した。
豚精肉(左皿)、親鳥精肉と豚レバー(右皿)
室蘭焼き鳥は、豚精肉と玉ネギを串に刺し、甘めのタレと洋辛子で食べるスタイルだ。室蘭は1909年(明治42年)、初めて製鉄所に火が灯って以来100年以上に渡り“鉄のまち”として歩み続けている。製鉄所に近い輪西(わにし)地区では、1933年(昭和8年)頃から屋台で豚肉の串焼きが売られていたといわれ、そこで働く労働者の胃袋を満たし、疲労回復をもたらす貴重なエネルギー源として好んで食べられていたのだ。
「焼き鳥」、つまり鳥を焼いて食べる料理自体の歴史は非常に古く、平安時代からあるといわれる。ただし、鳥とは、スズメ、ツグミ、キジ、カモなどの野鳥を指しており、「鶏(にわとり)」ではない。鶏は古くから農家で飼われてはいたが、卵を産んでくれる貴重な存在であり、食べてしまっては元も子もない。卵を産めなくなった老齢の廃鶏になって初めて、庶民の食用となるわけだが、肉質が硬化しているため焼き物には向かず、鍋や煮物にして出汁とともに味わうものだったらしい。
ところで、室蘭焼き鳥は豚なのになぜ“焼き鳥”なのだろうか?じつは、豚肉を使った焼き鳥は室蘭に限ったことではなく、全国各地にある。鶏肉を用いた焼き鳥が普及したのは、ブロイラー(食肉用若鶏)が米国から導入された1960年代以降のこと。それまで廃鶏以外の鶏肉は高級食材であり、庶民が気軽に食べられるようなものではなかったのだ。つまり、豚のほうがはるかに安かったのである。豚の串焼きは、スズメなど野鳥の串焼きを出す店=当時の“焼き鳥屋”で一緒に出されていたことから、いつしか“豚の焼き鳥”と呼ばれるようになったといわれている。
ブロイラー以前の鶏肉とは、基本的に“地鶏”である。地鶏を用いた焼き鳥店は札幌にも何軒かあるが、非常に値段が高い。例えば、比内地鶏の串焼きだと一本680円もする。一平が豚・鶏ともに一本180円~190円であることに比べると、なんと3倍以上なのだ。1930年代の値段がいくらだったのかは正確にはわからないが、同じくらいの開きがあったのではないかと想像することが出来る。
一平では豚だけでなく、鶏、牛、その他の創作焼きも充実している。メニューで驚いたのは、鶏の精肉が「親鳥精肉」「若鳥精肉」と2種類表記されていることだ。親鳥を置いている店は珍しく、めったに味わえるものではないのでこの機会を逃がす手はなく、間髪入れず注文した。上述の廃鶏ほどではないだろうが、若鳥と比べると明らかに肉質が硬めだ。と言っても、噛み切れないほどではない。むしろコリコリとした食感が、独特の風味を出していると言えるだろう。
それにしても、タレの味が絶妙だ。やや甘めだからこそ、洋辛子のピリッとした辛さがお互いを引き立てる。そして、玉ネギである。豚肉には長ネギより玉ネギのほうが合うというが、なるほどと納得できた。それらが混然一体となって、お勧めワインともじつに良く合うのである。ちなみにワインを卸しているのは、室蘭市祝津町で1910年(明治43年)創業の老舗酒屋「酒本商店」だ。札幌にも支店があるので、ぜひ覗いてみることをお勧めしたい。
アランチョ シラー(Arancio Syrah)
生産地:イタリア・シチリア州
生産者:フェウド・アランチョ
品 種:シラー
価格帯:1150円(税抜)~