「♪あなたに今夜は~ワインをふりかけ 心まで酔わせたい 酔わせたい あなたを~」。これは、その昔ジュリーこと沢田研二がマンズワインのCMに出演し、その中で歌った曲の一節だ。いまでもカラオケスナックなどでは、ワイングラス片手にすっかり歌にのめり込んで熱唱している人をたまに見かける。
この曲は、1978年(昭和53年)に発売されたシングルレコード「サムライ」のB面にカップリングされたものだ。何と言っても「ワインをふりかけ」である。本当にふりかけられたら堪ったものではないが、そこは作詞・阿久悠である。当時のジュリーのデカダンス(耽美的・退廃的)な魅力にぴったりで、ジュリーならどんな過激な表現でも許されてしまうという、スーパースターならではのオーラを放っていた時代の一曲だ。
ちなみにA面の「サムライ」の中では「♪片手にピストル 心に花束 唇に火の酒 背中に人生を~」と歌っている。“火の酒”とはウォッカのこと。ウォッカを飲みながら「♪半端なワインより酔わせてくれたよ ありがとうジェニィ~」と、こちらではワインを出しに使いながら感謝の気持ちを歌っているのだ。数年後、この“半端なワイン”が世を騒がすことになる。
1985年(昭和60年)7月、ワイン界に衝撃を与えた「オーストリア産ワイン・ジエチレングリコール混入事件」が起こる。ジエチレングリコールとは、自動車の不凍液などに用いられる化学物質で、大量に摂取した場合、死に至るケースもある有毒物質である。これがオーストリア産の白ワインに甘味料として不正に添加されていたのだ。世界各国では、同国産ワインを直ちに輸入禁止とし、販売業者は全力を挙げて商品回収にあたった。
日本では、厚生省(現・厚生労働省)が全国の小売店に対しオーストリア産ワインの全面撤去を要請。同省の調査では国内で流通しているオーストリア産ワインからは、ジエチレングリコールが検出されなかったとし安全宣言を出し、メルシャン、マンズワイン、サントリーの大手3社も「自社製品は安全」という趣旨の広告を新聞各紙に一斉に掲載した。
と、ここまでは良かった。ところが、である。あろうことか、一般の購入者が食品検査機関に持ち込んだマンズワインの高級貴腐ワインから、国産ワインに使われているはずのないジエチレングリコールが検出されたのだ。じつは、当時の国産ワインは、いかにも国産を装ったものでも輸入ワインとのブレンドや輸入果汁を用いたものがほとんどで、マンズワインが貴腐ワインのブレンド用に輸入したオーストリア産ワインが、問題の毒物混入ワインだったのだ。
この事件はマンズワインの信用失墜をもたらすと同時に、“国産ワイン”のお粗末な実態を白日の下にさらけ出す結果となった。他の大手メーカーも同じようなもので、輸入ワインが当然のごとくブレンドされていたにも関わらず、明確な原産地表示などは一切なし。つまり、国産なのか輸入なのかはっきりしない“半端なワイン”ばかりだったのである。
そもそも、なぜこのようなことになっているのか?それは、日本には「ワイン法」がないからである。ワインを生産するほとんどの国には、明確に規定されたワイン法があり、原産地を記さなければならない。世界の常識からすれば、輸入原料を使ったワインは国産ワインとは言えない。ところが日本では、国内で製造されれば原料が何であれ“国産ワイン”なのである。この中途半端な状況は、その後も30年以上改められることなく続いた。
2018年(平成30年)、日本における酒類を規制する唯一の法律である「酒税法」の一部が改正された。これにより“国産ワイン”という呼び名は公式には使えなくなり、日本国内で製造されたすべてのワイン(国産ブドウ・海外原料を問わず)を「国内製造ワイン」、そのうち国産ブドウのみを原料とし日本国内で製造されたものを「日本ワイン」、海外から輸入されたものを「輸入ワイン」と表示するよう明確に義務づけられたのである。
少なくとも“半端なワイン”状態は改善された。それにしても、なぜ改正に30年以上もかかったのだろうか?例えば、フランスではワインは“農産物”という位置付けなので、品質と安全性を担保するワイン法を所管する官庁は「農業省」である。これに対し、日本における酒類は重要な“税収源”なので、国税庁が所管する。やはり、この違いがワインの品質管理に対する本気度の差となったと言わざるを得ない。
さて、ジュリーである。「♪あなたに今夜は~ワインをふりかけ~」と歌った日から、45年の年月が流れた。御年75歳となる現在も、いたって元気で現役続行中である。LIVEでは、この曲をファンと一緒に合唱するのがお約束となっており、この場面で会場は一気に盛り上がる。時代が変わり、体型が変わっても、沢田研二は最後までスーパースター“ジュリー”を演じ続けるという、半端ではない生き方を貫き通しているのだ。
レンツ・モーザー ブラウワー・ツヴァイゲルト(Lenz Moser Blauer Zweigelt)
生産地:オーストリア・ニーダーエスタライヒ州
生産者:レンツ・モーザー
品 種:ツヴァイゲルト
価格帯:1700円(税抜)~
※オーストリアではその後、ワイン法を厳格化するなどして信頼回復に努め、現在では世界有数のワイン生産国として、高品質ワインを多数輸出している。