<vol.10> 王のワインと女王のワイン

“王のワイン”と呼ばれるワインがある。vol.2の回では“神のワイン”として世界中の人々に愛されるカベルネ・ソーヴィニオンを、“悪魔のワイン”として特定の人の心を虜にするピノ・ノワールを紹介した。では、王のワインとはどのような例えで使われているのだろうか?

「ワインの王にして、王のワイン」。これは、フランスの太陽王と呼ばれたルイ14世が、自身が愛して止まなかったハンガリーの貴腐ワイン「トカイ」を称えた言葉だ。貴腐ワインとは果皮に付くカビ菌の働きでブドウの水分が蒸発し、糖分が凝縮された貴腐ブドウから造られる極甘口ワインのこと。その蜜のように甘美な味わいは、ルイ14世だけでなく、ロシアのピョートル1世やプロイセン(ドイツ)のフリードリヒ2世など、多くの王たちを虜にしたという。

筆者は同じ貴腐ワインである、ボルドーの「ソーテルヌ」は飲んだことがある。通常のワインのように食事と一緒に味わうといったものではなく、食後に小さめのグラスで“デザートワイン”として楽しむのが一般的だ。芳醇で濃厚な甘さを持つが、サラリとしてベトつかず後味がすっきりしているので、甘口が苦手な人でも十分にいける。ちなみに、昨年亡くなられた英国のエリザベス女王が好んだ“女王のワイン”のひとつが、このソーテルヌだそうだ。

イタリアに「バローロ」というワインがある。イタリア北西部ピエモンテ州のバローロ村周辺で造られる赤ワインだ。じつは、こちらのワインも「王のワインにして、ワインの王」と呼ばれているのだ。使われるのは「ネッビオーロ」という品種で、これを最低3年間うち2年間は木樽で熟成させることが義務づけられている。一見色は薄めで軽めの印象さえ受けるが、一口含むと力強いコクと渋みが感じられ、格調高い風味が広がる。

他の品種では出せない、長期熟成ならではの重厚かつ深遠な円熟味が“ワインの王”たる由縁らしい。同じくネッビオーロを使い、近隣のバルバレスコ村で造られる「バルバレスコ」は“ワインの女王”と呼ばれる。こちらはバローロに比べ義務づけられた熟成期間が1年ほど短いため、渋みや酸味がやわらかく繊細な味わいとなる。ほどよい果実味も感じられ、エレガントな香りを持つのが特徴だ。

また、“白ワインの女王”となると、これは「シャルドネ」を指す。シャルドネは世界中で栽培されているが、ブドウ自体の味や香りにそれほど特徴のある品種ではない。寒冷地で育ったシャルドネはレモンやライムのような柑橘系の香りとなり、温暖な地で育ったものはトロピカル系の甘い香りとなる。さらに、シャブリのように牡蠣の化石を含む石灰層の土壌で育つと、ミネラル感豊かなキリッとした辛口となる。産地や気候、醸造方法などにより、変幻自在の美しい表情を見せることで“白ワインの女王”と呼ばれるようになったそうだ。

どうも“王のワイン”や“ワインの王”“ワインの女王”というのはたくさん存在するようである。そこで思い出したのだが、1995年(平成7年)にフジテレビで放送された三谷幸喜脚本の「王様のレストラン」というドラマがあった。その中で、松本幸四郎(現・白鴎)が演じる伝説のギャルソン(給仕)が、横柄な客に対し言い放つ決めゼリフ「お客様は王様です。だが王様の中には、首をはねられたものも大勢いる」と睨みを効かせるシーンが、何ともかっこ良かった。

そうなのだ、世界に王様はたくさんいるのだ。日本では「お客様は神様」だが、英語では「The customer is king.」となる。「神=God」は唯一絶対の存在なので、このような文脈では使わない。日本には王様はいないが、汎神論の国なので神様がいっぱいいて、このような言い方になったのだろか。

それに対し、とくに西洋には王様がたくさんいて、たしかに首をはねられた王様もいる。ルイ王朝の最後の王、ルイ16世こそがフランス革命で処刑されたまさにその人である。絶対君主と言えど、神のような絶対的存在ではないことを暗に物語っているかのようである。

左  :モラネラ バローロ(Moranera Barolo)
生産地:イタリア・ピエモンテ州
生産者:モラネラ
品 種:ネッビオーロ
価格帯:3500円(税抜)~

右  :バルバレスコ ヴァッレグランデ グラッソ フラテッリ(Barbaresco Vallegrande Grasso Fratelli)
生産地:イタリア・ピエモンテ州
生産者:グラッソ フラテッリ
品 種:ネッビオーロ
価格帯:3800円(税抜)~

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